いしころ
「人生の石ころ」


子供の頃、道の石ころにつまづいて、しょっちゅう転んでました。
膝をすりむいて、血が出てきて、痛くてよく泣いてました。

大人になったら、もう石ころにつまづいて転ばなくなったけど
人生の石ころにつまづいて、転んでいます。

つらくて、苦しくて、やりきれない気持ちになったけど、その石ころのおかげで
今ここに少し強くなった自分があります。
振り向けばただの石ころだったけど、でも私にいろいろ教えてくれた。

子供の頃、つまづいた石ころをじっくり見ただろうか?
だから何回も転んでいたのかもしれない。

でも今 私はその石ころをじっくり見つめる事ができます。
・・・・少しは、大人に なったかな・・・!?・・・


<真実ほど強いものはない>

実は私の4歳になる息子は何年か前から「全頭性脱毛症」にかかっています。
このような事をわざわざこういう場で言わなくても・・・・・とも思ったんですが、
この病気を煩っている家族を持ちそのおかげで私はいろんな事を学び、
また、人間の間違っている精神に気がつきました。
石ころにつまづいて転んだ。痛かった。でも石ころによって
つまづいて転べば痛いんだという事を知る事ができたんです。
永遠に転ばなかったら「転べば痛い」という事は分からなかったでしょう。

多数決が優先しているようなこの世の中の常識が、
特異な容姿やハンデを持った少数の者達をずいぶん追いやっている事に
気づきました。
何気ない表情や態度、そして言動がどれだけ影響を及ぼしているか
同情とかボランティアとかは一歩間違えば相手を下に見てしまいます。
人間は皆平等です。
根本となる精神を変えない事にはどうしようもありません。
ここでこうして書く事によって何かが伝わってくれたら
それだけでいいです。
世の中には病気や障害を持っている人はたくさんいます。
痛さ不自由さがないぶん私達は恵まれていました。

この子は生まれた時は髪もふさふさ生えていてごく普通の子供でした。
しかし1歳半過ぎから少しずつ少しずつ抜け始め、とうとう頭の髪の毛は
全部抜けてしまいました。その頃の私は

「一体何が原因なんだろう」
「精神的にこの子を苦しめていたのだろうか」
「原因を見つけない事にはこの病気の終結はない」とまで思っていました。

毎日が思案の連続です。この子に対する態度・言動の一つ一つに
もしかしたらこの何気ない言動に原因があるのだろうか・・・などと
考えるようになりました。
私自身は気をつけられてもこの子を取り巻くみんなに
そうさせるのはすごく無理があります。
その狭間で一体何が一番この子にとって最善の策なんだろうと
常に考えていました。
すれ違う人達のこの子に対する目線さえもこの子には鋭い武器になっていました。
小さな子供たちは素直すぎていろんな言葉をぶつけてきます。
こちらとしては友達になりたいという気持ち一心で向かっていっても
相手はそれ以前の段階ですでに見えない境界線を張ってしまうのです。
その為帽子をかぶせたり・・・と親としてはいろんな手段を使おうとします。
でもそういう一時凌ぎは全然通用しないのです。
私はいつも原因を見つけたいが為に後ろへ後ろへと考えていたのです。
この子にはドンドンこれからという時間があるのに
私はこれからを考えようともせずに何故こうなった!という事にしか
頭がまわらなかったのです。
これでは間違っている。それに過去なんてどうあがいても変えられない。
大切なのはこれからなんだと気がついたんです。
私はこの子をもっともっと強く、精神的に強くしなくちゃいけないんだ!
と思うようになりました。
私がいくらかばった所でそれはこの子にとって何にもならない事なのだと気づいたのです。

この子を守れるのは私(家族)しかいない。
この子を取り巻く環境を変えさせるのではなく、この子が自分自身を
好きになるように仕向けてやる事が私の役目なんじゃないだろうかと
考えたのです。
まだ何も知らない純真なこの小さな子の精神だけは
捻じ曲がらないようにしなければいけないんだ!
って思ったんです。

それ以来私はこの子にも
「自分は髪の毛が抜ける病気だから闘わなくちゃいけないんだ」という事を教えました。
それまではひた隠しにしたりごまかしたりしてましたが、そんな事は間違っていると思ったんです。
髪が抜けている事は事実なんです。事実だからどう頑張っても捻じ曲げられない。
だから事実をしっかり見つめて一緒に付き合わなくちゃいけないんです。
それは、辛い気持ちや「自分ばかり何故?」という妬みの気持ちと付き合ったらダメなんです。
「これは事実なんだから、だからこれで生きていかなくちゃね」という平常心で
付き合っていかなくちゃいけないんです。

時には長年教師をされていた年配の方からこんな事を言われました。
「お子さん髪の毛どうされたの?・・・・でも、あんまりこの子の前で
髪の毛について話さない方がいいよ。この子が気にするから・・・・・。」と。

私は「この人何言ってるんだろう・・・。」と思いました。
「あなた、今までに教師していてたくさんの生徒を教えてきたのでしょう・・・。」と
聞き返したかったです。
「あなたはそうやって今まで子供たちに対しても真実から逃げてきたのですか?」
と、聞きたかったです。

真実ほど、強くて太くて大地にしっかりと根を下ろした揺るぎ無いものはありません。
誰がなんと言おうと真実は一つだけですし、捻じ曲げられないものなんです。
真実から逃げる事は簡単だけど、真実をしっかりと見据える事はすごく勇気がいります。
でも、それはとっても大事な事だと私はこの子によって教わりました。

人間の外見なんて年がいけば自然に変化していきますし、
付き合っていけば外見なんて全く関係の無いものになっていますよね。
やっぱりこの世の中に大切なのは・・・そして重要視されるのは、精神だと思います。
私はこの子の外見が他人と異なる事にすごく抵抗していましたが、
そんな小さな事に神経をすり減らす事の愚かさを知りました。
人間の容姿や外見、地位や名誉なんてそんなものはなんでもない。
その人が一体どれだけいろんな事を経験して
何を心に身につけてきたか・・・
それが人間の価値なのではないかと思います。
そしてなんといってもこの子によって私は
真実に向かう勇気を与えられました。

この子はすごく明るい性格で、何人かの方から「この子の笑顔は人を動かす」
とさえ言われるほど屈託のない顔で毎日笑ってくれます。

こんな笑顔のこの子が私の子供だと思うと本当に心から感謝したくなります。

前回のお話<失敗という名の石ころ>

前回のお話<優等生という名の鎧を脱ぎ捨て・・・>
前回のお話<人間の哀しいサガ〜家庭は人生の勉強場〜>


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