第40号  新しくあることに
 
中山 芳淳  福井県特殊教育センター所長(1994年)
 センターに赴任しての最初の感動は、YちゃんとK先生との出会いであった。言葉のまだ出ないYちゃんに、K先生は、遊びや絵カード学習でサインや選択肢の応答がやっとであるという長い関わりの未、ひょっとして、待ちのない自分の関わりがYちゃんの「伝えよう」という気持ちを摘み取っているのではと話されるのである。Yちゃんの行動から、かすかな自分の意志で学ぼうとする意欲を感じとられたK先生とYちやんの努力の日々に深い愛と感動を覚えるのである。そして、毎日、同じように見える何気ない繰り返しの生活の中で、見えないところで日々成長している子ども達に心が洗われるのである子どもにとって、今日は昨日の繰り返しではないし、明日は今日の同じ繰り返しでもなのである。
 そうしてみると、所長室に掲げられたほととぎす草の描かれた額(初代所長書)の一節「新しくあることに時間をとりなさい それは幸福への道です」に、はっと思い当たるのである。
 新しくあるというのは、視点を変えてとか気持ちや心の持ち様を新しくということで、現在の置かれている状態や人とのつながりを固定的に捉えず、常に流動的に捉え、ゆとりをもって新鮮に保ち続けよといわれているようである。そこには、故きを温めて新しきを知るとも読めるのである。また、幸福への道とは、それぞれの人に与えられた、ただ一度の人生の価値をできるだけ豊かに「人間らしく生きる」と受けとめてみるのである。人間らしく生きるとは、人間らしく生かされていることでもあるのではないだろうか。このことは、まさに特殊教育が、ただ単に心身障害児を指導するというのではなく、教育とは何かという教育の本質に迫るものであることを感じるのである。
 現在、子ども達一人ひとりの障害に応じた多様で弾力的な教育の展開が一層強く叫ばれ、心身障害児に対する理解・認識の推進に更に力を注ぐよう求められている。センター創立の原点に立ち、「新しくあることに」のことばをかみしめて歩みたいものと職員一同、意を新たにしているところである。各位の一層のご指導とご支援の程、伏してお願い申しあげる次第である。