第26号  教育、医学、福祉の接点にたって
 
平谷 美智夫  福井県小児療育センター(1989年)
 “すくらむ”の巻頭言をとのご依頼に何を書こうかと思いながら、これまでの先輩の方々の文章を読ませていただきました。教育、福祉、医療の連携という言葉が繰り返し述べられており、障害児の療育についての当り前のようなこの課題が、なかなか難しいものであることを感じさせられました。小児療育センターは、そもそもこの目的のために設立されたものであり、このテーマを実現することが、療育センターの発展につながり、更によりよい障害児の療育につながるものと思っています。
 心身障害児療育の最近の特徴は、(1)障害が重複、重症化しており、医療の占める位置が大きくなってきていること。(2)反面、障害児の概念が拡大され、ごく軽度の障害、例えば学習障害児(Learning Disabilities;LD)なども含まれるようになってきたこと。(3)神経科学(Neuroscience)の進歩や優れた診断機器の開発により、これまで不可能であった病気の診断治療が可能になりつつあり、その進歩は加速度的であるということがあげられます。このように障害児の医療は、以前には想像もできなかったほどの幅の広さと奥の深さを持つようになっています。当然、親や社会がセンターに求めるニーズは、ますます拡大しています。
 この様な中で、小児科医の果たすべき役割は、患者さんにできうる限りの医学的な診断治療を行う一方、教育、福祉の関係者に正確な医学情報を提供することであると思っています。他方、教育との具体的な連携としてLD(学習障害)を取り上げ、1年余り前から特殊教育センター、福井大学の有志で、LD研究全を定期的にもってきました。LDは、神経心理学と教育学の接点であり、まさに医学、心理学、教育学がお互いProfessionalとして協力できる分野で、この仕事の今後の発展をおおいに楽しみにしております。
 私の部屋の壁の向こうの未熟児センターからは、モニターの規則正しい音に混じって赤ちゃんの泣き声が、窓の外からは保母さんのピアノに合わせて、つくし園、ひばり園の子供達の元気な歌声が聞こえてきます。2年前まで、医者と看護婦だけのような世界にいた私が、いま自分の周囲にいる実に多様な人々をみて不思議に思うことがあります。その一方こういった人々と文字どおり“すくらむ”をくんで小児科医として働けることを喜びに思っています。