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障害児教育が義務制になって、今年で10年目になります。それは、義務制になる直前のことでしたから、昭和53年のことだったでしょうか。私は、ちょうど就学年齢に達する重度障害の高アンモニア血症の女児を受け持っていました。その子どもが障害児教育を受けることになったときの、母親のとまどいの中にも大変うれしそうな表情を、はっきりと目に浮かべることができます。また、入院中の知恵遅れのある子どもが、病棟で学校の先生から授業を受けることができるようになったときの明るい顔も忘れることができません。
障害児を含めて人間は、誰しも知識欲を持ち、教育を受けることに喜びを持っています。障害児教育の一層の発展を願わずにはおれません。
私の専門とする小児科の疾病構造は、戦後著しく変わりました。危険な疾病から子どもの命を守ることが第一の目標であった昭和30年代までの小児科は、次第に、小児の心と体の健康の向上、学校教育にまつわる小児の諸問題の解決に目を向けるようになってきました。その結果、障害児の発生の予防にも、また、学校保健の向上にも大きな進歩がみられました。
しかし、なお学校教育においては未解決の多くの問題が残されており、これらを含めた子どもの教育の改善・充実・発展のためには、学校教育の中で小児科医の果たすべき役割がますます大きくかつ重要になるものと、私たち小児科医は考えております。わが国における小児科医が、これらの問題に取り組み充分な成果をあげるためには、思い切った対策を必要としております。
小児科学会は、このような観点から、これからの小児科医を養成する小児科学教育について、従来の小児疾患を中心とする小児科学教育の他に、
- 子どもの心と体の発育とその健康を中心とし、特に教育問題などを含めた行動問題に対応しうる小児科学教育
- 心身障害児の早期発見・早期治療、さらに障害児教育の基盤を強化する小児科学教育
などの必要性について文部省に要望しております。
このためには、新たに発達小児科学・小児臨床心理学・小児精神医学・行動小児科学あるいは育児学などを専門とする小児科学を、制度として医学教育の中に確立する必要があります。
しかし、これらの対策が実施されるまで、現実は待ってはくれません。子どもの心と体のよりよい健康のために、また、教育の原点である障害児教育の発展のために、一層の協力をしていかなければならないと考えております。
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