平成六年一○月五日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 青山健治
平成三年(行ウ)第二号 選挙人名簿不登録違法確認等請求事件
福井県坂井郡丸岡町荒町二九 原告 李鎮哲
福井県敦賀市三島町一丁目四 - 一六 原告 鄭慶讃
福井市灯明寺一丁目五一五 原告 薛文昊
福井県坂井郡春江町江留下屋敷一一二 原告 朴漢圭
右四名訴訟代理人弁護士 丹羽 雅堆
同 大川 一夫
同 井上 二郎
同 上原 康夫
東京都千代田区霞が関二丁目一番一号
被告 国
右代表者法務大臣 前田 勲男
福井市大手三丁目一○番一号
被告 福井市選挙管理委員会
右代表者委員長 益永 民夫
右 指 定 代 理 人 衣目川 一郎
同 土田 眞司
福井県敦賀市中央町 二丁目一番一号
被告 敦賀市選挙管理委員会
右代表者委員長 青野 美津子
右 指 定 代 理 人 山口 重滋
同 土屋 尚樹
福井県坂井郡丸岡町西里丸岡第一 二号 二二番地一
被告 丸岡町選挙菅理委員会。
右代表者委員長 長村 法男
右 指 定 代 理 人 北 正勝
同 島崎 隆和
福井県坂井郡春江町随応寺第一七号一○番地
被告 春江町選挙管理委員会
右代表者委員長 渡辺 賢一
右指定代理人 五十嵐 英之
同 黒川 正夫
右五名指定代理人 泉 良治
同 中湖 正道
同 山岸 誠
同 木下 芳夫
同 池内 牧子
同 兵谷 芳康
同 斎藤 秀生
一 原告李鎮哲が被告丸岡町選挙菅理委員会に対し、原告鄭慶讃が被告敦賀市選挙
管理委員会に対し、原告薛文昊が被告福井市選挙管理委員会に対し、原告朴漢圭
が被告春江町選挙管理委員会に対し、それぞれ各古原告が属する普通地方公共団体
の長及びその議会の議員の選挙権行使のための選挙人名簿に登録されていないこ
とは違法であることの確認を求める請求を棄却する。
二 原告らが被告国に対し、各原告に対しそれぞれ金一○○万円及ぴこれに対する
平成三年五月 二八日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める請
求を棄却する。
三 原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも却下する。
四 訴訟費用は、原告らの負担とする。
事 実 及 ぴ 理 由
第一 請求
一 原告李鎭哲については被告丸岡町選挙管理委員会及び被告国との間において、
原告鄭慶讃については被告敦賀市選挙管理委員会及ぴ被告国どの間において、
原告薛文昊については被告福井市選挙管理委員会及ぴ被告国との間において
原告朴漢圭については被告春江町選挙管理委員会及ぴ被告国どの間において、
各原告が属する普通地方公共団体の長及ぴその議会の議員の選挙権行使のため
の選挙人名簿に登録されていないことは違法であることを確認する。
二 被告らは各原告に対し、各自金一○○万円及びこれに対する、被告国は平成
三年五月二八日から。その余の被告らは同月二五日から、各支払みまで年五
分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
原告らは、いずれも大韓民国国籍を有し、肩書地に住所を有する外国人登録上の
協定永住資格者である(甲五ないし八)ところ、本件は、原告らが、原告ら日本の
旧植民地(朝鮮)出身者及びその子孫である定住外国人には、その属する普通地方
公共団体の長及び議会の議員の選挙権が憲法上保障されているとして、原告らに右
選挙権の行使を認めず、選挙人の資格を日本国民に限定する公職選挙法 九条 二項
、 二一条一項、地方自治法 一一条、 一八条の各規定(以下「本件各国籍。条項」
という。)は違憲、違法である旨主張し、無名抗告訴訟として原告らがその属する普通
地方公共団体の長及び議会の議員の選挙権行使のための選挙人名簿に登録されていない
こと(右事実は当事者間に争いがない。)の違法確認を求めるとともに、右不登録及び
その根拠となっている本件各国籍条項を設けたことにより原告らの選挙権が侵害され、
著しい精神的苦痛を受けたとして、国家賠償法一条に基づいて慰謝料の支払を求めた事案である。
(争点)
1 不作為の違法確認訴訟(無名抗告訴訟)の適法性
2 国家賠償請求について各選挙管理委員会は被告適格を有するか。
3 原告らは普通地方公共団体の長及び議会の議員の選挙権を有するか。本件各
国籍条項の違憲、違法性
原告らの主張は、別紙原告らの主張のとおりであり、被告らの主張は、別紙
被告らの主張のとおりである。
第三 争点に対する判断
一 不作為の違法確認訴訟(無名抗告訴訟)の適法性について
請求の趣旨第一項記載の請求は、原告ら定住外国人は日本国憲法上地方公共団
体の長や議会の議員の選挙に関して選挙権を有し、選挙人名簿に登録されるべき
であるにもかかわらず、被告各選挙管理委員会が原告らを選挙人名簿に登録しな
いので、右不作為が違法であることの確認を求めるというものである。
選挙人名簿ヘの登録は、名簿に登録された者が公の選挙に参加する資格を有す
ることを公証する行為であって、行政庁の公権力の行使であるから、選挙人名簿
に登録される資格を有するにもかかわらず登録されない者、登録を拒否された者
に対して、不利益の是正を求める抗告訴訟を提起する途を認めなけれぱならない。
ところで、公職選挙法では、選挙人名簿ヘの登録は選挙管理委員会が住民基本
台張に基づき職権で行うものとされ、選挙人の協力を得て名簿の正確性を確保す
る目的で名簿を選挙人の縦覧に供したうえ、登録及び不登録に関して不服のある者に
選挙管理委員会への異議の申出(二四条)と、異議についての決定の取消訴訟(二五条、
以下「名簿訴訟」という。)を提起することを認めている。名簿訴訟は選挙人団の
構成員を決定するという公の7利益に関する訴訟であり客観訴訟であるが、異議申
出が容れられず登録されなかった者及び登録されていたが異議によって登録が取消さ
れた者にとっては公の選挙に参加する資格の公証を拒否されたという行政処分に対す
る救済手続の機能も有するので、通常は、不登録につき名簿訴訟いがいに行政訴訟を
提起することは許されない。
そこで、定住外国人である原告らについても名簿訴訟以外に行政訴訟を提起できな
ものとすべきかについて、さらに検討するに、名簿訴訟は早期に選挙人団を確定し、
もってその後に行われる選挙の公正を確保しようつするものでいわゆ
る百日裁判とされており、前記のとおり住民基本台張に基づいて選挙人名簿に登
録する仕組みを前提とする制度である。名簿訴訟という訴訟形態が特別に認めら
た理由等に鑑みると、住民基本台帳に登載されていない外国人の登録に関する
紛争まで予定して名簿訴訟が設けらたものとは解し難いし、しかもこれを百日
裁判で審理しなけれぱならない理由は見出せない。
以上の検討からすると、外国人の選挙権の有無という問題についてまで名簿訴
訟によって行うべきことが求めらられていると解することはできない。
そこで、抗告訴訟の訴訟形態としていかなるものが許容されるかについて検討
するに、登録されていないという状態では行政処分がなされたとはいえないので
取消訴訟もしくは無効確認訴訟を認める余地はなく、申請行為を前提とする不作
為の違法確認訴訟を提起できる場合でもない。前記のとおり、選挙菅理委員会は
選挙人の有資格者については職権をもって選挙人名簿に登録する行政処分をなす
べきであるから、不登録に対しては、無名抗告訴訟として、行政庁に対し登録す
ることを求める義務付け訴訟、あるいは登録義務確認訴訟もしくは登録しないこ
との違法確認訴訟を提起することがかんがえられるが、選挙人名簿ヘの登録には
法改正を要し、それについては立法府の判断を尊重する必要があるから、登録しない
ことの違法確認訴訟の限度で許容されると解するのが相当である。
以上のとおり、原告らが、無名抗告訴訟として、被告各選挙管理委員会に対し
選挙人名簿に登録されていないことの違法確認を求める請求は適法である。
原告らは、被告国に対しても登録しないことの違法確認請求をするが、国は行
政庁ではなく行政処分たる選挙人名簿の登録行為をするものではないから、被告
国に対する請求は不適法である。
国家暗償請求についての各選挙管理委員会の被告適格について
二 国家賠償請求についての各選挙管理委員会の被告適格について
原告らは、各選挙管理委員会を被告として、国家賠償法一条に基づく損害賠償
の請求を行っているが、各選挙管理委員会は行政機関であって、行政主体ではな
いから、右請求についての被告とはなりえないというべきである。
原告らは、国または地方公共団体が国家賠償法一条の責任を負う場合、加害者
たる公務員個人も責任を負うと解されるところ、本件では加害者が公務員個人か
行政機関かという相違があるだけであるから、加害者たる各選挙管理委員会も責
任を負うと解すべきであると主張するが、各選挙管理委員会は行政機関であって
権利義務の帰属主体ではないのであるから、これを権利義務の帰属主体である公
務員個人と同列に論じることはできない。
三 原告らは普通地方公共団体の長及び議会の議員の選挙権を有するか。本件各国
籍条項の違憲、違法性
1 原告らについて
原告らは、地方公共団体の長及び議会の議員の選挙権を有すると主張すると
ころ、外国人一般についてこのような選挙権が保障されていると主張するもの
ではなく、日本の旧植民地(朝鮮)出身者及びその子孫であり、定住外国人で
ある原告らについて保障ざれていると主張し、定住外国人の定義及び要件とし
て、日本における社会・生活実態から社会構成員性を有することと当該個人が
生存する上で日本社会との実体的つながりの程度が強いことであるとする
甲五ないし八によると、原告薛と朴は韓国で出生し戦前に日本に渡航してき
た者であり、原告李と鄭は戦前に渡航してきた両親の子として日本で生まれた
者であるが、原告らは終戦後も日本にとどまり、日本で勉学し、結婚し、就職
や事業活動を行い、日本社会に生活の本拠を有し、日本社会の構成員として所
得税、県民税、市町村民税などの各種納税義務を履行していると認められ、原
告らのいう定住外国人に該当することは明らかである。
2 選挙権と憲法一三条後段、三○条との関係について
原告らは、選挙権は憲法一三条後段の幸福追求権に基礎づけられるから、自
己が居住する国や地方公共団体の政治決定に従わざるをえない社会的構成員に
対し等しく保障されなけれぱならないとして、直ちに定住外国人に選挙権が認
められるべきであると主張する。
しかしながら、選挙権が幸福追求権に内包されうるものとしても、幸福追求
権が憲法第三章に規定される他の個別的人権と重なる場合には、その個別的人
権の問題として論じるべきであって、独自に幸福追求権を問題とする必要はな
い。選挙権については憲法一五条に個別規定が置かれ、それによっ
解すべきであるとされている。そこで、選挙権が定住外国人に対しても等しく
及ぶものと解すぺきであるかについて、原告らの主張に即して検討する。
3 憲法一五条一項違反について
憲法一五条一項は「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有
の権利である。」と選挙権について規定しているところ、原告らは、同条の
「国民」及び右規定のよって立つ「国民主権」にいう「国民」とは、その政治
社会における決定に従わざるを得ない社会の構成員たるすべての市民であり、
原告ら定住外国人も含まれると主張するが、そのような見解を採用することは
できない。
「国民」とは「日本国籍を有する者」である。
すなわち、国家は国民によって構成される団体であり、主権が国民に存する
という以上、その「国民」とは、国家の構成員としての国民、すなわち、日本
国籍を有する者であることを当然の前提としているというべきであり、外国人
を含まないことは明らかである。
そして、各選挙人が選挙に参加すること自体は、国民主権の実をあげるため、
国家の機関として「公の職務」を執行する側面も有しており、憲法一五条一項
にいう公務員の選定罷免権すなわち選挙権は権利であるとともに義務である。
このように、選挙権は、国家の存在を前提として初めて成立する権利であり、
国家の機関の一員としての法的地位にある者、したがって、一定の資格を有す
る国民にのみ認められる国法上の基本権であり、権利の性質上当然に日本国民
のみを対象としていると解されるのである。
以上のとおり、選挙権は権利の性質上日本国民のみを対象とすもものであ
って、外国人にはその保障が及ぱない。
4 憲法九三条二項違反について
憲法九三条二項は、「地方公共団体の長、その議会の議員及ぴ法律の定める
その他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。」と規定
しているところ、原告らは、「住民」とは地方公共団体の構成員を意味するも
ので原告ら定住外国人が含まれる、このように解することが地方自冶の本旨に
合致すると主張する。
しかしなから、地方公共団体における選挙権も、国民主権原理に基づくもの
であって、憲法一五条一項の国民が選挙する公務員には、地方公共団体の長等
の地方公共団体の公務員も含まれていると解されるから、地方公共団体の公務
員を選挙する「住民」と憲法一五条一項の「国民」とは同二の概念に基づくと
解す したがって、地方公共団体における選挙権についても、憲法上保障されてい
るのは日本国籍を有する者に限られるというぺきであり、日本国籍を有しない
定住外国人には憲法上保障されているということはできない。
5 市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「B規約」という。)二五条
違反について
原告らは、参政権を規定したB規約二五条が、その権利主体を「国籍を有す
る国民」とせず、「すべての市民(Every citizen)」としていることからす
ると、原告ら定住外国人を「市民」に含める趣旨であることが明らかであると
して、B規約二五条に反する本件各国籍条項は無効であると主張する。
しかしながら、B規約は世界人権宣言を前提とし、これに法的拘束力を具備
させたものであり、B規約二五条は世界人権宣言二一条に対応して設けられた
規定であるところ、同条一項は、「自国の統治に参与する権利を有する。」と
規定し、選挙権の行使が自国民の手によるものであることを明言しているので
あって、B規約二五条が国籍を条件とすることを否定する趣旨で「すべての市
民」という用語を使用」たものでないことは明らかである。
市民(citizen)という用語は、人民(people)、者(one)などと異なり、
一般に、公民権を有する者という意味で用いられていること、B規約で「すべ
ての市民」の用語が使用されているのは、参政権に関する二五条のみであるか
ら、参政権という権利の特性を考慮して「すべての市民」と規定されたと解釈
するのが相当であり、実際に選挙権を有するのは、すべての国民ではなく、国
政に参加する資格を有する者に限定されるとの趣旨から「すべての市民」と規
定されたものと解するのが相当である。
B規約二五条の「市民」に定住外国人を含むと解することはできず、本件各
国籍条項はB規約二五条に違反するものではない。
6 憲法一四条、B規約二六条違反について
憲法一四条一項は、すべての国民は、法の下に平等であると規定しており、
また、B規約二六条も同旨のことを規定している。これらの規定は、その性質
上、特段の事情の認められない限り、外国人に対しても適用ざれるべきもので
あるが、前示のとおり、日本国籍を有しない者については、そもそも選挙権が
保障されていないのであるから、日本国籍を有しない者について選挙権を認め
ないことをもって、そのことが右の規定に違反するということはできない。
7 地方自治法一○条一項、二項について
原告らは、地方自治法一○条一項は、「市町村の区域内に住所を有する者は、
当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする。」と規定しており、同
条二項は、住民の権利義務として、「役務の提供をひとしく受ける権利を有し、
その負担を分任する義務を負う。」と規定しているところ、原告らは同条一項
にいう住民であり、納税の義務をはじめ「その負担を分任する義務」を果たし
ているから、「役務の提供をひとしく受ける権利」が保障されなけれぱならず、
普通地方公共団体の選挙権は、右役務の提供が如何になされるべきかを判断す
るための必要不可欠の前提的権利であるから、これを保障しないことは、同法
一○条一項、二項に違反する違法な行政行為となると主張する。
しかしながら、同法一○条一項は、地方公共団体の構成要素としての住民を
定義したものであり、この意味における住民には年齢、意思能力、国籍を問わ
ず当該地方公共団体に一定期間居住する者すべてが含まれるのであり、同条二
は、このような構成員たる「住民」に対する地方公共団体の責務と地方公共
団体の構成員たる住民の果たすべき義務を抽象的に宣言したものにすぎない。
したがって、右規定から、定住外国人を含む「住民」一般に対し選挙権が与
えられているとか、これを保障すべきことが定められているということはでき
ない。
本件各国籍条項が地方自治法一○条一項、二項に反するとの原告らの主張は
理由がない。
8 B規約二七条について
原告らは、原告ら旧植民地出身者とその子孫は日本社会のマイノリテイーで
あるとして、B規約二七条によって少数民族に属する者に保障された「自己の
文化を享有し、自己の宗教を信仰しかつ実践し又は自己の言語を使用する権利」
を確立、発展させるためにも、選挙権が不可欠の権利であると主張するが、右
規定自体は、少数民族が居住する国の国籍を有するか否かにかかわらず少数民
族に属する者の固有の文化、宗教、言語を尊重しその権利を保障しようという
ものであって、定住外国人の存在とその選挙権についてはなんら言及しておら
ず、同条によって定住外国人の普通地方公共団体における選挙権を保障するこ
とが要請されているということはできない。
9 定住外国人の地方参政権の許容性
以上検討したように、国政はもちろん地方公共団体についても、選挙権は、
権利の性質上、日本国民に対してのみ憲法上保障されているものと、いわざるを
えないが、日本国民に限るべき実質的理由は、国民主権原理の当然の帰結とし
て国の政治的意思決定及びその実施が日本国民によってなされなけれぱならな
いからである。 このことから、地域の産業経済や住民福祉など住民の日常生活に密
着する行政が主たるもので国の政治的意思決定やその実施に影響を与えることの少な
い市町村のレペルについては、定住外国人など一定の外国人の選挙権を認めるこ
とは、憲法の禁ずるものではなく、許容されているとの見解が主張されている。
そして、甲二によると、スウェーデン、ノルウェー、テンマーク、オランダ、
アイルーフンド、スイス、スペインの各国もしくはその一部では、その地域に定
住する外国人に対し当該地方議会の議員等の選挙権を現に付与していること、
ドイツのー部の州では付与していたことがあることが認められる(なお、イギ
リス、オーストラリア、ニュージーランド、フランス等は自国と特別の関係に
ある外国人に対して自国民と同一の選挙権を与えているにすぎない。)。
人と資本の国際的移動が活発になったことがそのような動きの背景にあると
はいえ、生活形態と地域ヘの帰属性において地域の国民となんら変らず、納税
義務を果たしている外国人が自らの快適な生活と地域の発展を願って日常生活
に密着した行政につき意思を反映したいと思うのは自然であることを認めるこ
とがこれらの立法政策の根底にあると思われる。
前記の各国が選挙権を付与するに至った事情はそれぞれに異なり、どのよう
な外国人に対しどのような内容の選挙権を付与するかには各国の事情が反映し
ており、直ちに日本がこれに倣うべきであるとはいえないが、これらの請外国
の立法例の存在は、市町村レペルでの選挙権を一定の外国人に認めることは憲
法の許容するところであるとの見解が十分に成り立ち、実施可能であることの
実例ではあろう。
もっとも、市町村のレペルについて定住外国人など一定の外国人の選挙権を
認めることは憲法上許容されているとの見解に立ったとしても、外国人に選挙
権を認めるかどうかは立法政策の問題にすぎないから、本件各国籍条項が違憲、
違法であるということにはならないし、しかも立法しないからといって裁量権
の逸脱、濫用が問題となるものでもない。
四 結論
以上のとおり、憲法は外国人に対し地方公共団体における長及び議会の議員
を含め公務員の選挙権を保障しておらず、B規約や地方自治法においても同様
であるから、本件各国籍条項を違憲、違法ということはできない。
なお、原告らは、定住外国人に対し憲法上選挙権が保障されていることを前
提として、その制約についての違憲性も主張するが、原告ら定住外国人には憲
法上選挙権が保障されていないのであるから、その制約について違憲の問題が
生じる余地はない。
本件各国籍条項が違憲、違法ではなく、かつ、原告ら定住外国人の選挙権が
憲法上保障されていない以上、原告らのその余の主張について判断するまでも
なく、原告らがそれぞれ対応する被告選挙管理委員会に対し不作為の違法確認
を求める請求と原告らの被告国に対する国家賠償の請求iはいずれも理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
福井地方裁判所民事第二部
裁判長裁判官 野田 武明
裁判官 宮武 康
裁判官 井上 一成
別紙
一 アメリカ独立宣言に思想的淵源をもつ幸福追求権(憲法一三条)は、消極的自
由を内実とするだけでなく、国家権力から自己の権利を割限されたり、義務を課
される場合には、政治的決定に参画し、自己の意思を表明する権利、すなわち、
政治過程に積極的に参加する権利を内包している。選挙権は、このような政治過
程に積極的に参加する参政権のうちでもっとも基本的かつ重要な基本的人権であ
り、政治適程に自己の意思を表明するという個人の主観的権利である。そして、
幸福追求権に基礎づけられる選挙権は、個人の尊厳の原理と結びつき、個人の人
格的生存に必要不可欠の権利であり、自己決定と自己実現のための不可欠な基本
的人権である。このように、幸福追求権に基礎づけられる選挙権は、自己が居住
する国や地方自治体の政治的決定に従わざるを得ない社会構成員である個人に対
し、等しく保障されなけれぱならない。
「代表なきところに課税なし」の理念は、近代立憲民主主義の基本原則であっ
て、納税義務者は自己が支払った租税の使途を監視し、違憲・違法な租税支出が
国や地方自治体によってなされた場合には、これを積極的に是正する権利が保障
されなけれぱならない。このように納税者基本権(憲法三○条)は参政権的権利
性を有する基本的人権であり、納税義務者は、右納税者基本権を具体的に実現す
る不可欠の手段として選挙権が保障されなけれぱならない。
原告らは、出生、勉学、結婚、就職等の生活歴の全てかほぼ全てが日本にあり、
日本社会に生活の本拠を有し、日本社会の構成員として、日本で働き、日本社会
と地域に貢献している者である。また、原告らは、所得税、県民税、市町村民税
などの各種納税義務を履行する納税者であり、日本国と地方自治体の政治、行政
決定に従わざるを得ない市民、住民である。そうであるならぱ、原告らに対して
は、幸福追求権に基礎づけられ、納税者基本権を具体化するための不可欠の基本
的人権である選挙権が憲法上保障されなけれはならない。
ニ 憲法一五条一項は、公務員の選定罷免権すなわち選挙権の享有主体について国
民と定めており、これは国民主権原理から導かれるものである。ところで、国民
主権原理は、もともと絶対王政の権力を支えた君主主権論に対抗する概念として
登場してきたものであり、次第に勢力を増してきたブルジョワジーが絶対王政の
権力を打倒する闘いのなかで、君主主権というイデオロギーを否定し、新たな民
主主義原理として唱えられたものであった。したがって、ここでいう国民は君主
及び封建的特権階級以外の人々を総称するものであり、外国人に対する国籍保持
者という意味での国民ではない。日本国憲法の場合、国民主権は、明治憲法にお
ける天皇主権の否定、すなわち、国民とは異質な国民の上に立つ権威である天皇
による支配を排除する、こいう意味をもち、治者と被治者の同質性を表す法概念で
ある。
国籍という概念は、国民主権原理が確立された後に、国民主権の範囲を画する
手段概念としてつくられたものであり、決して国民主権原理の前に国籍が確定さ
れていたわけではない。
国民主権原理の意味は、国家権力の正当性の源泉が国民に存するということ
(正当性の契機)と、国民が国家意思の最高の決定権をもつということ(権力性
の契機)にあるが、このいずれの意味においても「国民」が「国籍保持者」に限
定されなけれぱならない理論的必然性はない。国籍の如何を間わず社会の構成員
すべての意思に基づいて権力が行使され、国家意思が形成されたとしても、主権の
正当性の契儀及び権力性の契機のいずれも損なわれるものではない。国民主権
原理の実質は人民による自己統治であり、これは政治的決定に従うものは当然そ
の決定に参加できなけれぱならないという民主主義の原理と結びつく。そうであ
るならぱ、主権者たるべきものは、その政治社会における決定に従わざるを得な
い社会の構成員たるすべての市民ということになり、憲法一五条一項の「国民」
はそのように理解されるべきである。
原告ら定住外国人は、その社会生活実態等からして、明らかに日本国憲法下に
構成される政治社会の構成員であり、憲法一五条一項の「国民」に含まれるもの
であるから、日本国憲法は、原告ら定住外国人に対し、選挙権を保障していると
いうぺきである。
三 仮に、憲法一五条一項の「国民」に原告ら定住外国人が含まれないとしても、
法九三条二項にいう「住民」は、国籍の如何にかかわらず、地方公共団体の構
成要素としての住民を意味するものであって、原告ら定住外国人に対し、地方参
政権を付与することを憲法が保障している。
すなわち、「住民」概念は国籍とは無関係な概念として便用されてきており、
日本国憲法においても、「住民」が「国民」=「日本国民」の下位概念とはされ
ていない。そして、地方自治は、権力分立による権力の抑制、均衡という自由主
義的契機と議会制民主主義の補完という民主三義的契機から、憲法上不可欠のも
のとして保障されているのであって、その意味では、地方公共団体の自治権は国
から独立したものであり、その行使は構成員である住民の意思に基づくことが要
請される。また、「地方自治の本旨」は住民自治と団体自治によって構成され、
地域社会を構成する住民の意思にこそ地方自治権力の淵源があるとする。
原告らは地方公共団体の地域構成員であり、自治体の政治的決定に従わざるを
得ない住民である以上、地方自治の本旨から憲法上当然に普通地方公共団体にお
ける選挙権が保障されるというべきである。憲法九四条は法律の範囲内でのみ地
方公共団体の高権行為を認めているから、原告ら定住外国人に右選挙権を認めた
としても、国政や国の政治的決定と矛盾することはありえない。
四 日本は一九七九年、B規約を批准したが、わが国の場合、憲法九八条二項によ
り、条約は特別の立法措置を待たずとも国内的効力を認められており、そのまま
国内適用可能な性格(自動執行的性格)を有する規定は直ちに国内法としての効
力を有するところ、B規約は自動執行的性格を有しており、これに抵触する国内
法はその限りで効力を失う。
B規約二五条は、「すべての市民は、第二条に規定するいかなる差別もなく、
かつ、不合理な制限なしに、次のことを行う権利及ぴ機会を有する。」として、
そのaは「直接に、又は自由に選んだ代表者を通じて、政治に参与すること。」
を規定し、bは「普通かつ平等の選挙権に基づき秘密投票により行われ、選挙人
の意思の自由な表明を保障する真正な定期的選挙において、投票し及び選挙され
ること。」を規定している。
B規約は、「すべての市民(every citizen)」という概念を使用し、その権
利主体を「国籍を有する国民」とはしていない。このように、参政権の主体を国
民とはせずわざわざ「市民」としていること、原告ら定住外国人は、日本社会の
住民として定住し、労働と納税を通じて当該社会の維持・発展に寄与し、地方自
治体の政治的決定に従わざるを得ない者である以上、B規約二五条の「市民」に
該当することは明らかである。
五 地方自治法一○条一項、二項からも、原告ら定住外国人に普通地方公共団体に
おける選挙権が保障されなければならない。すなわち、同条一項は、「住民」の
意義について、「市町村の区域内に住所を有する者は、当該市町村及びこれを包
括する都道府県の住民とする。」と規定し、住民の範囲を「日本国籍を有する者」
と限定していない。さらに、同条二項は、住民の権利義務として、「役務の提
供をひとしく受ける権利を有し、その負担を分任する義務を負う。」と規定する。
原告らは、納税の義務をはじめ「その負担を分任する義務」を果たし、自治体
の政治、行政決定に従っている。そうであるならぱ、同条二項によって、原告ら
は、「役務の提供をひとしく受ける権利」が保障されなけれぱならない。普通地
方公共団体の選挙権は、右役務の提供が如何になされるべきかを判断するための
必要不可欠の前提的権利であり、原告ら定住外国人の「住民」に対しても等しく
保障されなければならない。義務のみを課し、住民として最も基本的権利である
選挙権を保障しないことは、同法一○条一項、二項に違反する違法な行政行為と
なる。
六 原告ら定住外国人は、日本国籍者と同等の市民、住民であり、社会構成員であ
って、納税義務者であり、また、自治体の政治的決定に従わざるを得ない者であ
る。それにもかかわらず、本件各国籍条項によって原告らに選挙権を保障しない
のは、憲法一四条、B規約二六条にも違反する。
七 原告らは旧植民地出身者とその子孫であって、定住外国人であり、日本社会マ
イノリテイーである。マイノリティーが、・自らの民族的・文化的アイデンテイテ
ィーを確立し、発展させることは、日本政府の国際的義務でもある(B規約二七
条)。そして、マイノリテイーがマイノリティーの人権を確立し、発展させるた
めにも選挙権が不可欠の権利として必要であり、保障されなけれぱならない。
ハ
八 仮に、原告ら定住外国人に憲法上保障されている選挙権を制限することが直ち
に違憲でないとしても、本件各国籍条項によって原告らの選挙権を割限すること
は、立法の裁量権を逸脱・濫用したものであり、違憲である。
すなわち、地方公共団体における選挙権は、地方公共団体の住民が地方政治の
代表者を選任し、地方自治の本旨である住民自治を実現するために最も優越的に
保障されなけれぱならない基本的人権であり、民主主義実現の根幹的権利である。
このような優越的地位にある右選挙権の保障について、立法裁量権の限界を考
える場合には、その合憲性判定基準は、精神的自由に関する基準とほぼ同一の基
準であるいわゆる「厳格な審査の基準」が妥当する。すなわち、「目的が正当で
あり、その目的達成手段がやむを得ないものであって、目的達成に必要なもので
を何ら設けることなく、全面的に選挙権を奪うことは立法目的達成の手段として
も著しく不当である。
以上から、本件各国籍条項は立法の裁量権を逸脱・濫用したものであって、違
憲無効である。
九 定住外国人に対する地方参政権保障の国際的潮流について
歴史的・国際的潮流として、外国籍居住者に対して地方自治体の参政権を保障
する国々がヨーロッパ諸国(スウェ−デン、オランダ、デンマ−ク、スイスの一
部の州、ノルウェー、アイルランドなど)を中心に年々増加している。また、第
二次世界大戦後、戦後処理問題として、旧植民地と宗主国との関係において、旧
植民地出身の居住者に対し、参政権をも含めた市民権を保障する国々(イギリス、
フランスなど)も存在する。
このような諾外国の立法例と国際的潮流をみるならぱ、原告らが、本件各国籍
条項が憲法等に違反し違憲、違法であるとする主張が、いかに合理的であり、正
当なものであるかが明らかである。
一○ 国家賠償法適用の要件事実について。
国の不法行為については、国が選挙権資格について本件国籍条項を設けたこ
と及びそれを存統させたことが行為の内容である。本件のように国の意思に基づ
き、国の政策そのものから行われている右行為については「公務員」及ぴ「職務」
を特定するに適切でなく、まさに国そのものの行為として責任が問われるべきで
あるが、敢えて「公務員」に当たるものを特定するとすれぱ、それは組織体とし
ての国会、内閣である。すなわち、本件各国籍条項を設けたのは、立法機関であ
り、合議割機関である組織体としての国会自体である。また、内閣は、本件各国
を何ら設けることなく、全面的に選挙権を奪うことは立法目的達成の手段として
も著しく不当である。
以上から、本件各国籍条項は立法の裁量権を逸脱・濫用したものであって、違
憲無効である。
九 定住外国人に対する地方参政権保障の国際的潮流について
歴史的・国際的潮流として、外国籍居住者に対して地方自治体の参政権を保障
する国々がヨーロッパ諸国(スウェ−デン、オランダ、デンマ−ク、スイスの一
部の州、ノルウェー、アイルランドなど)を中心に年々増加している。また、第
二次世界大戦後、戦後処理問題として、旧植民地と宗主国との関係において、旧
植民地出身の居住者に対し、参政権をも含めた市民権を保障する国々(イギリス、
フランスなど)も存在する。
このような諾外国の立法例と国際的潮流をみるならぱ、原告らが、本件各国籍
条項が憲法等に違反し違憲、違法であるとする主張が、いかに合理的であり、正
当なものであるかが明らかである。
一○ 国家賠償法適用の要件事実について。
国の不法行為については、国が選挙権資格について本件国籍条項を設けたこ
と及びそれを存統させたことが行為の内容である。本件のように国の意思に基づ
き、国の政策そのものから行われている右行為については「公務員」及ぴ「職務」
を特定するに適切でなく、まさに国そのものの行為として責任が問われるべきで
あるが、敢えて「公務員」に当たるものを特定するとすれぱ、それは組織体とし
ての国会、内閣である。すなわち、本件各国籍条項を設けたのは、立法機関であ
り、合議割機関である組織体としての国会自体である。また、内閣は、本件各国
籍条項を入れた法案を国会に提出し、その後も本件各国籍条項を撤廃する法律改
正案を国会に提出せず、本件各国籍条項を存統させている。
各選挙管理委員会自体の不法行為については、原告らを選挙人名簿ヘ登録すべ
き義務の不履行が行為の内容であり、この場合にも、「公務員」を特定するのは
適切でなく、各選挙管理委員会自体として責任を負う。
一 選挙権が日本国民にのみ認められていることは憲法に規定ざれている。
すなわち、国会議員はもとより地方公共団体の議会の議員及び長を含め、およ
そ公務員を選定し罷免することは、国民固有の権利であり、これは主権が国民に
存することからの当然の帰結である。
憲法一五条一項にいう公務員の選定能免権すなわち選挙権は、国民の最も重要
な基本的権利の一つであることは論をまたないが、それは、人たるものが当然に
有する意味での前国家的権利ではなく、各選挙人が選挙に参加すること自体は、
選挙人団の一員として「公の職務」を執行することであるから、それは権利であ
るとともに義務である。それ故、国家の存在を前提として初めて成立する権利で
あり、国家の機関受託者としての法的地位、したがって、一定の資格を有する国
民にのみ認められる国法上の基本権であり、その内容も国家の在り方を定めた憲
法により規定されるべきものである。憲法一五条一項は、選挙権の主体につき
「国民」と明記しており、さらに、右選挙権が憲法前文及び一条の国民主権原理
から当然に導かれるものである以上、国民主権原理は国民のみが国家権力行使の
正当性の源泉であることを要請するのであるから、右選挙権は、その権利の性質
上当然に日本国民のみを対象としていると解されるのであり、憲法四四条はその
当然の事理を規定したにすぎないのである。また、人の持つ参政権が、その人の
所属する国の政治に参加する権利である以上、外国人が帰化の要件を充たさず、
あるいは、充たしても帰化を望まずに他国の国籍を有し、その対人高権に服して
いる以上、他国ヘの参政権を有しないというのは、国家という性質上きわめて当
然なことである。
二 憲法九三条二項は、国会議員の選挙権と同様に、国民主権原理を定めている憲
法前文、一条及び公務員を選定することを国民固有の権利とする憲法一五条一項
から直接派生する条項である。そもそも、国民主権国家においては、主権の存す
る国民が正当に選挙された国会の代表者を通じて行動し、地域社会の公共事務の
処理に関しては、住民が直接選挙された地方公共団体の長及び議会の議員を通じ
て行動するが、それは、国民主権の枠組の中で、地域社会の公共事務を自ら処理
する機構として地方公共団体が存在するのであって、地方公共団体の行政が国政
から超然としで存在するものではない。
また、地方の政治・行政と国の政治・行政は、相互に密接に関連し、それぞれ
責任を分担して政治・行政を行う仕組みとなっており、地方における政治的意思
決定は、国における政治的意思決定と不可分の関係にあり、わが国では、地方公
共団体が多くの国の事務を処理していることは周知のことである。したがって、
およそ国会議員の選挙権と地方公共団体の議会の議員及ぴ長の選挙権とは、国民
主権原理からみて密接不可分であり、地方公共団体の議会の議員及ぴ長の選挙権
に限って外国人に認めるべきであるとする原告らの主張のように、これを別異に
取り扱うことはできない。このように解することは、何ら憲法九二条にいう地方
自治の本旨に矛盾するものではない。
したがって、憲法九三条二項にいう「住民」とは、地方公共団体の有権者集団
としての「住民」であり、憲法一五条一項にいう「国民」を当然の前提とした上
で、全体としての「国民」に対する部分としての「住民」と解するのが相当であ
り、地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権は、当該地方公共団体以外の国民
にはなく、当該地方公共団体の住民のみがこれを有することを明確に規定したも
のである。
それ故、地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を日本国民に限る本件各国
籍条項は、憲法九二条、九三条二項に何ら違反するものではない。
三 憲法一四条一項は、いかなる場合においても差別的取り扱いを禁止する趣旨で
はなく、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものであれぱ、別異の取り
扱いをすることも許容されると解するのが相当であって、選挙権を日本国民に限
り外国人に認めないことは、公務員を選定することを国民固有の権利とする憲法
一五条一項、主権が国民に存することを定めた憲法前文及び一条並びに選挙人の
資格を法律で規定することを定めた憲法四四条の規定に照らして十分に合理性が
あり、憲法一四条一項に何ら違反するものではない。
四B規約二五条は、規約成文(英文)では「Evrery citizen」ととあり、日本文翻
訳では「すぺての市民」とされている。市民(citizen)という用語は、人民(p
eoples)、者(one)などと異なり、一般に、公民権を有する者という意味で用
いられており、また、B規約二五条の「すべての市民」は、明らかに参政権を念
頭に置いており、民主的社会の運営に参加する当該国の国民、換言すれば、国政
に参加する資格を有するすべての国民という概念でとらえているものである。ま
た、市民という用語は、法律用吾として必ずしも熟成しているとはいえないが、
歴史的にみれば、市民とは国民であることを前提としていたのであって、B規約
に使用される用語も、歴史的な背景を無視して使用されているとは考えられない。
ハさらに、B規約二五条は、世界人権宣言二一条に対応して設けられた規定であ
るところ、同条一項は、「自国の統治に参与する権利を有する。」と規定し、選
挙権の行使が自国=国民の手によるものであることをの言している。かように世
界人権宣言は、選挙権の行使権者が国民であることを明言しており、B規約が国
民という用語を使用する代わりに市民という用語を使用したのは、前記のように
実際に選挙権を有するのは、すぺての国民ではなく、国政に参加する資格を有す
る者に限定される趣旨からであると解される。
したがって、B規約二五条の「市民」に定住外国人を含むと解するのは当を得
ない。
界人権宣言は、選挙権の行使権者が国民であることを明言しており、B規約が国
民という用語を使用する代わりに市民という用語を使用したのは、前記のように
実際に選挙権を有するのは、すぺての国民ではなく、国政に参加する資格を有す
る者に限定される趣旨からであると解される。
したがって、B規約二五条の「市民」に定住外国人を含むと解するのは当を得
ない。