定住外国人の完全なる地方参政権を求める在日同胞共同声明


 私たち在日同胞は、これまで長きにわたり「定住外国人に地方参政権を!」との声をあげ、日本社会の中から、日本社会に問い続けてきた。しかし今年1月21日、与党の公明党・自由党から議員立法として国会に提出された「永住外国人の選挙権付与法案」は、在日同胞を分断し、その片方に制限された地方参政権を付与しながら、他方を排除するという内容であり、これまでの私たちの努力と期待を裏切るものとなっている。「朝鮮」籍・無国籍を理由として、法制化された権利から排除することは、これをいったん認めてしまえば、将来とり返しのつかない大きな禍根を残すものとなりかねない。ステップ・バイ・ステップで今後の法改正に期待すれば済むとは、決して考えることはできない。

 この法案の骨子は、(1)方公共団体の議会の議員及び長の選挙権を付与する者を、永住者に限る。また当分の間、外国人登録原票の国籍の記載が国名により記載されていない者を除く。(2)選挙権のみ付与し、被選挙権は認めない。(3)永住外国人であっても当然に選挙権を付与されるのではなく、住所地の選挙管理委員会に申請し選挙人名簿に登録することによって選挙権を行使する−となっている。

  
 「外国人登録原票への国籍記載が国名により記載されていない者」とは、具体的に「朝鮮」籍者と無国籍者を指している。「朝鮮」籍者を排除することは、さらなる民族差別であり、同様に無国籍者を排除することは、国籍による差別以外の何ものでもない。

  
 1910年強制的に大日本帝国臣民とされ、1945年日本の敗戦で植民地支配から解放されたものの、朝鮮戸籍に属していた在日同胞は、1947 年の外国人登録令によって、日本国籍を有しながら外国人とみなされ、全員が外国人登録原票の国籍欄に「朝鮮」と記載された。1952年、サンフランシスコ講和条約発効で日本は主権を回復するや、国籍選択の自由、国籍を有する権利を一切考慮せずに、在日同胞から一方的に日本国籍を剥奪した。これにより、軍人・軍属・慰安婦など戦争に駆り出された人びとへの戦後補償をはじめ、すべての在日同胞に対して日本国が果たすべき責任を狡猾に放擲してしまっただけでなく、民族差別は国籍による差別へとすりかえられ、現在に至るまで在日に深刻な影響を及ぼし続けている。

 
 その上、国籍による差別を解消するのではなく、「差別されたくなければ帰化すればいい」と責任を転嫁してきた。その帰化申請も制度自体が差別的で屈辱的な上、あくまで日本側による選別であり、踏み絵を踏ませて忠誠を誓えば、見返りとして国籍をやろうというものである。これは、権利と全く似て非なるものである。帰化せずに「韓国」籍・「朝鮮」籍のまま、現在も65万人もの在日同胞が日本に居住していることの痛みと重みが、そこにある。
 
 在日同胞はすでに三世・四世へと世代交代が進み、これまで以上に生活上の権利が必要不可欠となっており、日本社会の構成員として日本国民とともに生きてきた歴史と実績も看過できないものとなった。それゆえ、日本社会にも民族差別は許しがたいものとして、定住外国人の地方参政権を求める声が上がってきたのである。

 しかしその一方では、「国民主権原理」の仮面をつけた「国家主権原理」を背景として、在日同胞への権利保障を却けようとする排外的ナショナリズムも台頭している。これは、日本国自身が行なってきた歴史を隠蔽し、半世紀以上にわたり放棄してきた責任を逃れようとするものである。
 
 こうした排外的ナショナリズムに呼応するかのように、今回の法案は「朝鮮」籍者を排除し、被選挙権も認めないというものである。たとえ、「朝鮮」籍者で日本での参政権を拒否する人がいたとしても、はじめから「朝鮮」籍者を排除することは、何ら正当化されない。

 
 日本は分断された国家の悲劇を1965年韓日条約で在日同胞にまでもたらし、「韓国」籍と「朝鮮」籍に法的に分断することで支配を強化した。四半世紀を経て1991年やっと“特別永住”資格に一本化されたものを、また再び分断支配しようというのであろうか。
 
 日本国内だけでしか通用しない外国人登録原票への「国籍」記載をもって、「朝鮮」籍者を新たに差別し、在日同胞社会と家族までも分断する法案を、私たちは断じて許すことはできない。

 
 また、「選挙権のみ」ということは、「立候補はダメだけど、投票権はあげる。だからわが党に投票してね」と言っていることに等しい。定住外国人は、国民ではないが、地域社会において納税をはじめとする責任を果たしている「住民」である。地方参政権のうち、選挙権のみを付与して被選挙権を否定することは、定住外国人を“二級市民”として貶めることである。私たちは声を大にして、「議席なくして課税なし」という民主主義の原則を訴えたい。被選挙権を除外することは、在日同胞がこれまでかちとってきた権利に「上限枠」を設け、たとえ住民としてでも国民との平等を許さないとする卑劣な差別主義である。国民主権の本来の意味は、主権在民であって、外国人への差別を正当化して国民を特権者とすることではない。

 この法案の差別性は、ひとり私たち在日同胞に向けられているだけではない。永住資格を有しない定住外国人も排除していることは、決して看過できない。永住資格の取得を容易に認めようとしない現在の入管行政の中で、永住資格の有無で選挙権付与の線引きをすることは、外国籍住民をさらに分断していくものである。
 
 私たちは、この問題が私たち在日同胞だけの問題でないことを常に自覚し、すべての定住外国人の人権向上のため、互いに連帯し共に闘い続けていくことをここに表明し、国会に対して、定住外国人の完全な地方参政権を保障する立法措置を、早急に講じるよう求める。

  2000年3月1日
  鄭 香 均(東京)/鄭 暎 恵(東京)/金 秀 一(神奈川)/金 静 伊(埼玉)/
  鄭 雅 英(大阪)/高 二 三(東京)/李 正 子(東京)/李 佳 子(山口)/
  姜 栄 一(千葉)/林 相 鎬(千葉)/黄 光 男(兵庫)/・ ・ ・