日本では今、在日韓国・朝鮮人65万人をはじめ、さまざまな国籍の外国籍住民、約180
万人が暮らしている。
在日韓国・朝鮮人は、今世紀前半の36年間にわたる日本の植民地支配の歴史に起因する人びとである。しかし、日本敗戦直後の1945年12月には参政権を停止され、1952年4月の講和条約発効と同時に、国籍選択権が認められないまま日本国籍を剥奪され、保障されるべき市民的・政治的権利および社会的・文化的権利の享有からことごとく排除された。
そして今では、在日韓国・朝鮮人は二世・三世が大半を占め、四世・五世の世代を迎えている。彼ら彼女らの多くは1991年の入管特例法によって「特別永住者」となったが、退去強制条項が付され、日本に再入国する権利も認められていない。こうした特別永住は単なる「資格」であって、「権利」ではないのである。
イギリス、フランス、スペインなどが戦後、国内に居住する旧植民地出身者に対して国籍選択権あるいは市民権付与の措置をとったことと比べるならば、在日韓国・朝鮮人に対するこのような日本の政策は、あまりにも特異であり、明らかな民族差別である。
今世紀が終わろうとしている今、戦後補償の完全なる実現と、在日韓国・朝鮮人など旧植民地出身者の人権確立が、日本に求められているのである。
それに加えて1980年代後半以降、労働や留学、結婚などの目的で渡日する外国人が急増した。この10年間で彼ら彼女らの多くは、もはや「出稼ぎ労働者」などではなく、「定住外国人」として家庭を形成し、地域社会の構成員としての生活を営んでいる。旧植民地出身者および移住労働者のこうした現実は、日本社会を確実に「多国籍・多民族社会」へと変貌させている。
このような外国籍住民が地域社会の中でよりよく生活したいという願いをもって地方自治に参画することは、民主主義の基本理念から要請されており、それは地方自治を活性化させ、ひいては日本社会を豊かにすることは明らかである。すでにヨーロッパでは、スウェーデンが1976年、3年以上の定住外国人に地方選挙権・被選挙権を認めたことを嚆矢に、デンマーク、ノルウェー、オランダ、フィンランドがいずれも同様の制度を採用した。またフランスやドイツ、ベルギー、イタリアなどでは、「EU(欧州連合)市民」以外の定住外国人にも地方参政権付与が検討されている。ヨーロッパの多くの国では、台頭する極右・排外主義と対峙しながら、外国籍住民への地方参政権付与、あるいは外国籍二世・三世への国籍付与と多重国籍承認へと向かっているのである。
今年1月21日、与党の公明党・自由党は「永住外国人の地方選挙権付与法案」を国会に提出した。しかしそこでは、永住外国人(永住者・特別永住者)のうち「外国人登録原票の国籍の記載が国名によりされている者に限る」として、「朝鮮」籍者と無国籍者を選挙権付与の対象から除外している。
しかし、最初の外国人登録(1947年)においては、在日韓国・朝鮮人の国籍欄はすべて「朝鮮」とされた。現在のように国籍欄で「韓国」と「朝鮮」の二通りの表記になったのは、1948年の大韓民国樹立の後、法務当局が在日韓国・朝鮮人からの自己申請によって国籍欄の「朝鮮」を「韓国」へ書き換えることを認め、それを望まない者はそのまま「朝鮮」籍として残ったからである。
このように外国人登録原票の国籍欄に「朝鮮」と記載されている理由は、個人の意思やさまざまに異る事情があり、それを十把ひとからげにレッテルを貼って排除することは、思想・信条による差別を禁じた日本国憲法、日本がすでに加入している国際人権規約および人種差別撤廃条約に明らかに違反するのである。
またこの与党案は、日韓法的地位協定締結時の日本政府の見解(1965年10月)を援用して、外国人登録原票の国籍欄に「地理的名称として<朝鮮>」と記載されている者を排除しているが、このことは、1991年の入管特例法によって「韓国」籍者も「朝鮮」籍者も特別永住者として一本化されたものを「反古」にし、歴史の歯車を逆転させるものであり、「国籍指標」による在日社会の新たな分断に他ならないのである。
さらにこの与党案は、被選挙権を認めず「選挙権のみ」としている。選挙権と被選挙権は不可分のものであり、その一体性をくずすことは、代表民主制の基本理念から逸脱するものである。また、参政権を有する「住民」として認められる都道府県公安委員会や教育委員会の委員などへの就任資格からも排除していることは、在日韓国・朝鮮人がみずからの闘いによって積み上げてきた権利(文字通りの基本的な権利)を“上限”として、それ以上の権利は認めまいとする政府の政策的意図から出たものだと言うほかない。
1984年の神奈川県の県内在住外国人実態調査によると、「県、市の長や議員を選ぶ選挙権が必要である」と回答している「韓国」籍者は82.4%、「朝鮮」籍者は79.0%にのぼっている。この調査は16年前のものだが、現在、被選挙権を含む地方参政権を求める「韓国」「朝鮮」籍者の比率はそれぞれ高くなっていることは確実である。
地方自治とは本来、住民自治であり、その地域社会に住む人びとの団体自治による幸福追求である。そこには国籍も民族も関係ない。誰もが地域を愛し、さまざまな人たちの助け合いの中で生活する。その地域社会の意思決定のプロセスに、外国籍住民が参加することは当然のことであり、彼ら彼女らこそ、私たちと共に地方自治を担うかけがえのないパートナーなのである。このような地方参政権を含む外国籍住民の人権を確立することは、私たち日本人自身の「権利」の真価を問う試金石である。
私たちは、与党案における「朝鮮」籍の排除条項も、被選挙権の除外条項もとうてい認めることはできない。21世紀に向けて「多民族・多文化共生社会」の実現をめざす私たちは、国会に対して、在日韓国・朝鮮人をはじめとする外国籍住民の地方参政権(選挙権・被選挙権)の立法化をただちに行なうよう求める。
2000年3月1日
田中 宏(東京)/佐藤信行(東京)/水野精之(東京)/大石文雄(神奈川)/中村利也(東京)/大津健一(東京)/穂鷹 守(千葉)/小泉 基(東京)/尾下庸一郎(東京)/甲斐 靖(東京)/中澤 敦(東京)/仲原良二(兵庫)/・
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