2006年4月 坂井市長選挙におけるアンケートの回答

公開質問状

 私たちは、91年に福井地裁に提訴された在日外国人の参政権裁判の支援運動を通じ在日外国人、とりわけ在日韓国朝鮮人の人権問題ならびに地方自治体職員への採用任用における国籍条項撤廃に取り組んでいる市民グループです。
 今般、新生坂井市の市長選挙立候補予定された方々の、外国籍市民に対する政治方針や具体的政策を知ることはその政治信条や思想性を明らかにする上で不可欠であり、投票の際の重要な手がかりとなりさらには当選後の行政を図る上での重要な指針であると考えています。このような観点から表記アンケートに是非お答えいただきますようお願いいたします。なお先般の福井市長選挙の際にも各候補者から詳細な回答をいただいています。

 ご承知の通り、昨年末からフランス各地において旧植民地出身の移民とその新世代の若者たちによるフランス社会への激しい反発行動が継続し、フランスの根深い人種差別構造を問い糾す意味で、人々の歴史意識と社会の基本的あり方を大きく揺すぶっています。このような事態の原因は主に彼・彼女たちに対する就職差別と入居差別にあると言われ、フランス社会は事態の沈静化と差別撤廃のために単一民族主義的同化主義から多民族多文化国家へと大きく脱皮することが目前の課題となっています。
 急速な少子化と高齢化、人口減少を抱える日本を見た場合、このようなフランスの直面する問題はまさに自らの問題であり、定住外国人200万人と今後も急速に増加するであろう外国人労働者の社会参与権・人権保障をいかに確立していくのかは、自由と平等が何人にも保障された開かれた民主主義社会の建設、自民族優越主義から国際主義社会へと飛躍を果たし、アジアと平和共存・連帯するための試金石といわねばならないでしょう。

定住外国人の中でも、日本の旧植民地出身者である在日韓国朝鮮人は戦後日本国籍を一方的に剥奪され、参政権停止と同時にあらゆる制度的人権保障から排除され、いまだに就職差別や入居差別、民族名で生活することの困難さの中で、限られた職業や生活領域、日本社会に対する絶望感等によって、イスラエルによるパレスチナの受難にも似た、日本人の日常的生活観とは次元を別にする苦難を強いられています。既に二世・三世が大半を占め、四世・五世の世代を迎えている現在、多くは1991年の入管特例法によって「特別永住者」となったにもかかわらず退去強制条項が付され、日本に再入国する権利も認められていません。特別永住は単なる「資格」であって未だに「権利」ではないのです。

  イギリス、フランス、スペインなどが戦後、国内に居住する旧植民地出身者に対して国籍選択権あるいは市民権付与の措置をとったことと比べるならば、在日韓国朝鮮人に対するこのような日本の政策はあまりにも特異であって、明らかな民族差別であり、21世紀を迎えた今、戦後補償の完全なる実現と、在日韓国朝鮮人など旧植民地出身者の人権確立が早急に求められています。これらの事実がまさに例証するように、在日外国人の日本社会での生活にはさまざまな局面で制度的社会的差別の壁が立ちふさがっています。
私たちはその壁を破るための象徴的課題が参政権保障と公務就任における国籍条項撤廃であると考えています。以下、この問題を中心にお訊ねします。



1 05年6月30日、韓国の国会で永住資格を持つ19才以上の外国人に地方選挙権が認められました。永住資格取得3年で、地方選挙権が得られます。日本においても全国の1200を超える自治体が保障賛成の決議を上げ、最高裁においても地方参政権は憲法上許容されている旨の判断が出ています。また住民投票において外国籍市民の参加を保障する自治体が増加しています。参政権を持たない人間は政治的社会的隷属状態にあるといわざるを得ません。日本に定住する外国籍市民に対する参政権の保障についての御所見を明らかにして下さい。

2  参政権が保障されていない以上、何らかの制度保障によって代替的に外国籍市民の声を施政に反映させる必要があるのではないでしょうか。住民投票への参加を含めて坂井市における具体的施策案があればお答え下さい。

3  差別を撤廃する立場にある行政が、国籍条項を残し外国人職員を受け入れない現状が、一般企業の就職差別を助長する原因になってきました。福井県内では幸いなことに坂井市の行政自治区である丸岡町が消防職を含めて職員の採用任用時の国籍条項を全廃していますが、その他の旧3町では撤廃がほとんど進捗していません。全国的な撤廃の流れに即して、一般職の国籍条項を全廃し、新生坂井市役所を外国籍市民に対しても開かれた職場として開放するお考えはありませんか?

4 外国籍市民の一層の増加が予想されるなかで、いまだ単一民族を標榜して憚らない日本社会が今後どのように変わっていくべきとお考えでしょうか。特に企業社会における就労差別撤廃のための御所見をお聞かせ下さい。

5 ヨーロッパ諸国で極右政党台頭等と同時に移民労働者に対する排斥意識が高まりつつあるようですが、このような排外意識の日本における台頭を許さず、欧米崇拝アジア蔑視による差別意識を日本社会から拭い去り、平等で自由な民主主義社会の構築のために行政として何をなすべきか、ご見解をお聞かせ下さい。


林田 恒正氏の回答

1 最高裁の地方参政権は、憲法上許容されているの旨の判断にしたがい、日本に定住する外国籍市民に対する参政権の保証は当然だと思う。

2 外国籍市民の声を、坂井市政い反映させるため、市政座談会の参加、市政モニターへの委嘱、住民投票への参加を向きに取り組みたい。

3 私が旧丸岡町の町長在職中に職員の採用の国籍条項を全廃したので、その考えで取り組みたい。

4 国際化の時代、外国籍市民の協力なくして日本の産業の発展は考えられない。それ故、就労差別を撤廃しなければならないと思う。

5 「人間はみんな平等」という意識啓発が大切だと思う。特に「人権教育」「思いやりのある人間教育」など幼児からの教育が大切だとおもう。
また時間をかけて社会教育などを通じて差別意識の撤廃に取り組みたい。

坂本 のりお氏の回答

1 将来的には参政権を保障することが必要だと考えますが、形式的には、憲法第15条や公職選挙法第9条の規定があり、国政における参政権は、日本国籍に限られている間は難しいと思います。同様に、地方における参政権に関しても、憲法上禁止されているわけではありませんが、立法政策上の問題になる為、現状では難しいと思われます。

2 市内の定住外国人の方も含め、各界各層の皆さんとの直接対話を積極的に行っていく為に、各地域に出向き「座布団集会」を毎月開催いたします。さらに市民の皆様から広く意見を求める為、「パブリックコメント制度」を導入し、市民が主役のまちづくり、協働のまちづくりを進めます。


3 国においては、公務員の任用にかんする基本原則が示されていますが、全国的な国籍条項撤廃の流れの中で、本市においても国際化時代の共生共存について、市民の感情や意見を熟慮し公務員の任用について慎重に検討していきたいと思います。


4 少子化時代の到来により社会的、経済的活力が低下する中で、多国籍市民の労働力に頼る業界が、これから増加してくる事が十分考えられます。民間企業経営者として培ってきた実績を踏まえ、その活躍の場の環境整備が重要だと考えています。

5 「市民と協働」の基本理念の下に、企画立案の段階から、市民の声を政策形成に反映させる為、「市民提案制度」を導入し、市民同士の連携が十分に取れるように、情報開示に努めたいと思います。まず、市民一人ひとりがしっかりとした意見を持ち、それを市民同士で交換し合う場所作りが「平等で自由な民主主義社会の構築」の為の第一歩だと思います。


会のコメント

 林田予定者は、丸岡町において職員採用任用における国籍条項を消防職まで全廃し、その意味で理想的な公務任用権を認めた方でもあり、参政権についても積極的な保障を当然のこととして、開明的・民主的な姿勢が伝わってくる回答でした。「就労差別を撤廃しなければならない」として、行政の長として差別撤廃への意気込みが感じ取れました。

 坂本予定者の回答は、参政権、公務就任権について従来の行政姿勢から逸脱することのない「難しい」「慎重に」という言葉が目立ち、自らが行政の長として何をすべきか、何をなしたいかが残念ながらあまり伝わっては来ないもので、外国人の人権には消極的な態度といわざるを得ません。
「市民と協働」という理念の下での「市民提案制度」の導入等によって、差別撤廃に対し行政がどのような責任を担っていくのか、その具体像が見えにくい回答でした。
 

06.4.12