国籍条項完全撤廃に関する西川福井県知事への

質問書と回答

  2004年30日


福井県知事      西川一誠 殿
福井県人事委員会 委員長    石川満夫 殿

                        日外国人の参政権を考える会・福井
                            代  表    嶋 田 千 恵 子
                            〒910-0855 福井市西方1-2-11
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福井県職員採用・任用における国籍条項完全撤廃の申入れと質問書


 日頃より福井県民のよりよい生活と県政発展のため、日々御精励されている貴職に心から敬意を表します。
 私達は1991年県内の在日韓国人4名が『定住外国人に地方参政権がないのは違憲』との訴訟を福井地裁に起こしたことを契機に、在日韓国・朝鮮人らの定住外国人に対する民族・国籍差別の実態を直視すると共に、それらの解消にむけて微力ながら活動を続けている市民グループです。

 貴職は、すでに180万人以上といわれる在日定住外国人の1/3を占める韓国・朝鮮人がその歴史的背景による戦後補償からも除外されたまま長年の社会的制度的差別にさらされている現状をどのように認識されているでしょうか。
 とりわけその貧困と、社会生活の困難さの元凶となっているものが日本企業に蔓延する就職差別であり、その温床が自治体職員採用時の国籍条項であるとしてこの撤廃に向けて全国で運動が続けられています。また定住外国人に対し、〔参政権〕〔公務就任権〕を保障することは自立した地方自治体の実現の為、そして私たちの社会に民主主義と人権を再構築する上からも必須の条件といえます。

 この意味から、福井県職員採用・任用において現在存置されている国籍条項の完全撤廃を、強く要請するものです。私たちは国籍による一切の制約(職種と昇進)を排除した完全撤廃を求めます。
 国籍条項の根拠となってきたのは、ご承知のとおり1953年に出された内閣法制局見解の「当然の法理」論でした。しかし、これは当時から法曹界をはじめ各界から疑問視されるとともに批判されてきました。
  実際に70年代には阪神間の各市で、一斉に全職種の国籍条項が撤廃されていることをみても、何の正当性・規制力を持たない論理であることは明白です。にもかかわらず多くの自治体がこれの呪縛から逃れられず、不当に外国籍の人達の受験の機会を奪ってきました。

 ’96年11月当時の白川自治大臣は「採用は各自治体の判断にゆだねる」として『当然の法理』論による排除論を否定し、「外国人の採用機会拡大に努力いただきたい」との談話を発表しました。また、 97年11月東京高裁は、管理職への道を国籍条項によって閉ざされた東京都職員・鄭香均(チョン・ヒャンギュン)さんの訴えに対して、「国籍条項は外国籍職員が管理職に昇進する道を一律に閉ざすもので、職業選択の自由と法の下の平等を保障した憲法に違反する」との判断を示し、『当然の法理』が、法律以上に自治体に対して、規制力を持っていることに法治主義の立場から歯止めをかけました。都道府県レベルでは ’97年以降11府県、さらに12の政令指定都市が国籍要件を一般事務職から廃止し、高知県では消防職を含めた全職種で撤廃、長野県においても、昇進を含めた完全全廃がなされようとしています。

 県内でも、不完全ながら武生市、鯖江市、福井市、敦賀市、小浜市で原則撤廃への取り組みがなされ、丸岡町では消防職を含めた採用・任用の完全撤廃が実現しています。また、各地で行なわれている市町村合併問題等の住民投票では、定住している外国人にも投票権が保障されています。これらのことからも、『当然の法理』論がすでに崩壊していることは否定できない事実であり、今後さらにこれに依拠して国籍条項を温存する合理的理由は全くありません。いまや国籍条項撤廃問題は当該自治体の人権意識や地方分権、国際化の度合いを表すものであります。

 地方分権が大きく叫ばれている中、憲法でも地方自治を保障し、地方の独自性・先導性が求められている今日、地球規模で人・物・情報などが行き交い、またそのための優秀な人材の確保が地方分権の時代に必要不可欠であると考えられます。職員採用時には必ず国籍条項を撤廃して、多くの県民の期待に応えていただきますよう重ねて要請します。

*申し入れ事項及び下記について、貴職のご見解を示していただきますようお願い致します。




西川福井県知事の回答

人企第355号
平成16年7月15日

 福井県知事  西川 一誠

1 国においては「公権力の行使又は公の意志の形成への参画にたずさわる公務員となるためには日本国籍を必要とし、それ以外の公務員となるためには必ずしも日本国籍を必要としない」という公務員の任用にかんする基本原則が示されております。
 県において、どのような職務が公権力の行使に当たるのかについては、国、県、市町村では職務内容や組織形態などにおいても異なる部分があり、それぞれの役割みなおしにかかる地方分権の議論の状況も踏まえながら、慎重に検討していくべきものと考えております。

2 国際化が進展する中、外国人についても、各分野において平等に取り扱われることが原則であると認識しています。しかし、職員の採用に当たっては、上記の公務員の任用に関する基本原則を踏まえつつ、どのような職種であれば国籍条項が撤廃できるか、人事委員会とも充分に協議しながら、検討していきたいと考えています。


3 定住外国人に地方公共団体の議会の議員および長の選挙権を付与するかどうか、さらに被選挙権を含めた参政権を認めるかどうかは、国の根幹に関わる事項であることから、専ら国の立法政策上の判断にゆだねられるべき問題であり、国会において充分議論する必要があると考えていますが、一方で、国民、県民にも幅広い情報を提供し、議論を深める中で国民総意の形成に努めることが重要であると考えています。

 なお第159国会に提出された「永住外国人にたいする地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権等の付与に関する法律案」は継続審議となっています。

福井県人事委員会の回答

人委第井278号
平成16年7月15日

福井県人事委員会        
委員長 石川 満夫

1 
 公務員の任用における日本国籍の要否については国において「公権力の行使又は公の意志の形成への参画にたずさわる公務員となるためには日本国籍を必要とし、それ以外の公務員となるためには必ずしも日本国籍を必要としない」という公務員の任用にかんする基本原則が示されております。
 この基本原則に基づき県において、どのような職務が公権力の行使に当たるのかについては、国、県、市町村により異なると考えられます。
 また、その判断についてはそれぞれの職務の内容が公権力の行使や公の意志の形成にたずさわるものかどうかを具体的に検討したうえで行っていく必要があると考えています。
 このため、県人事委員会としては、実際に職員の任用や職務内容に関する事務を掌る知事等各任命権者の意見を踏まえながら、慎重に検討していくべきものと考えております。

2
県人事委員会では、これまで、上記の国が示した基本原則を踏まえ、知事等各任命権者の意見を聴きながら、全職種82職種のうち52職種で国籍条項の撤廃を随時行ってきました。
 残り27職種については、従事する職務の内容により、日本国籍を要する場合も考えられるため、これまでの様に職種単位で判断することは難しいのではないかと考えています。
 今後とも、国の基本原則を踏まえながら、どのような方法であれば国籍条項が撤廃できるか、引き続き知事等各任命権者の意見を聴きながら、検討していきたいと考えています。