2006年 福井市長選挙におけるアンケート調査

在日外国籍市民に対する施政に関して

  

 私たちは、91年に福井地裁に提訴された在日外国人の参政権裁判の支援運動を通じ在日外国人、とりわけ在日韓国朝鮮人の人権問題ならびに地方自治体職員への採用任用における国籍条項撤廃に取り組んでいる市民グループです。

 今般の福井市長選挙に立候補された方々の、日本並びに福井に在住する外国籍市民に対する政治方針や具体的政策のあり方を知ることは、立候補者の政治信条や思想性を明らかにする上で不可欠の要素であり、投票の際の重要な手がかりとなり、さらには当選後の行政の性格を図る上で市民にとって重要な情報であると考えています。このような観点から以下の質問をします。

 ご承知の通り、昨年末からフランス各地において旧植民地出身の移民とその新世代の若者たちによるフランス社会への激しい反発行動が継続し、フランスの伝統的な差別構造を問い糾す意味でその歴史意識と社会の基本構造を大きく揺すぶっています。このような事態の原因は主に就職差別と入居差別であると言われています。フランス社会は事態の沈静化と差別撤廃のために単一民族主義から多民族多文化国家への脱皮が目前の課題となっています。

 急速な少子化と高齢化、人口減少を抱える日本を見た場合、このようなフランスの直面する問題はまさに自らの問題であり、定住外国人200万人と今後も急速に増加するであろう外国人労働者の社会参与権・人権をいかに確立していくのかは、自由と平等が何人にも保障された開かれた社会の建設、自民族優越主義から国際主義社会へと飛躍を果たし、今後アジアと平和共存・連帯するための試金石といわねばならないでしょう。

 在日韓国朝鮮人が戦後日本国籍を一方的に剥奪され、参政権停止と同時にあらゆる制度的人権保障から排除され、いまだに就職差別や入居差別、民族名で生活することの困難さの中で、限られた職業や生活領域、日本社会に対する絶望感等によって、イスラエルによるパレスチナの受難にも似た、日本人の日常的生活観とは次元を別にする苦難を強いられている、その事実にまさに例証されるように、在日外国人の日本社会での生活にはさまざまな局面で差別の壁が立ちふさがっています。

私たちはその象徴的事例が参政権問題と公務就任における国籍条項であると考えています。以下、この問題を中心にお訊ねします。

公開質問状

1  外国籍市民に対す参政権の保障については全国の多数の自治体が賛成の決議を上げ、最高裁においても地方参政権は憲法上許容されている旨の判断が出ています。また住民投票において外国籍市民の参加を保障する自治体が増加しています。参政権を持たない人間は政治的社会的隷属状態にあるといわざるを得ません。日本に定住する外国籍市民に対する参政権の保障についての御所見を明らかにして下さい。

2 参政権が保障されていない以上、何らかの制度保障によって代替的に外国籍市民の声を施政に反映させる必要があるのではないでしょうか。具体的施策があればお答え下さい。

3 差別を撤廃する立場にある行政が、国籍条項を残し外国人職員を受け入れない現状が、一般企業の就職差別を許す原因になってきました。福井県内では丸岡町が消防職を含めて職員の採用任用時の国籍条項を全廃していますが、福井市の場合、残念ながら一般職職員のうち一部のみが採用・任用の対象になっています。一般職の国籍条項を撤廃し、外国籍市民に対しても開かれた職場として開放するお考えはありませんか?

4  外国籍市民の増加が今後予想されるなかで、日本社会がどのように変わっていくべきか、御所見をお聞かせ下さい。

5  ヨーロッパ諸国で極右政党台頭等と同時に外国人移民に対する排斥意識が高まりつつあるようですが、欧米崇拝アジア蔑視による差別意識を日本社会から拭い去るために行政として何をなすべきか、ご見解をお聞かせ下さい。

2006年2月13日

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回答

回答順

高木 ぶんどう氏

1  日本に定住する外国籍市民にたいする参政権の保障について

 外国籍市民については、一定の条件の下で地方自治体での参政権を与えるべきであるというのが私の立場です。理由は次の通りです。

 まず、定住外国人は、わが国を生活の本拠として社会生活、経済生活をおくり税金を納めています。「代表なければ課税なし」の原則の裏返しとして、彼らにも自分たちが納めた税金の使い途を監視し、意見を述べる権利が与えられるべきと考えます。

 次に、地域社会の安定・発展という観点からも、地用参政権を与えることで定住外国人コミュニテイの中に位置づけ、まちづくりや地域作りの積極的な担い手として活用して行くことが必要であり、得策でもあると考えます。

 定住外国人には、滞納や懲役などの犯罪歴がないこと、一定期間我が国に定住していることなどを条件に地方参政権が与えられるべきと考えます。特に在日韓国・朝鮮人については戦後一方的に参政権を奪われた経緯があり速やかに参政権を回復すべきと考えます。

 マニフェストにも掲げていますが、障がい者であることや外国人であることは多様性であって、そのため権利が侵害されることは許されないと考えます。

 日本国憲法は、第15条で「公務員を選定し、および、これを罷免することは、国民固有の権利である」と規定する一方で第93条は「地方公共団体の長、その議会の議員は-------住民がこれを直接選挙する。」と規定しています。最高裁判所も定住外国人への地方参政権の付与については、立法政策の問題であるという見解です。また。すでに平成12年には国会に定住外国員にたいする地方参政権付与法案も提出されており、定住外国人にたいする参政権の付与の条件は整いつつあると考えています。

2  参政権がない現在、何らかの保障制度が必要だが福井市における具体的な施策案があれば示してほしい。

 マニフェストにも掲げているように、福井市民の権利を確立するための「自治基本条例」の制定をめざしており、この条例が対象とする市民には当然定住外国人が含まれると考えています。この自治基本条例では、情報公開請求権や町づくりに参加する権利や町づくりの計画策定に参画する権利などについて広く検討を行いたいと考えています。

 福井市は在日韓国人・朝鮮人のほか日系ブラジル人などの住民が多いまちです。外国人の生活に影響のある施策については、川崎市が設置している「外国人市民代表者会議」などの取り組みには見習うべきものがあると考えています。

3 一般職の国籍条項を全廃し、外国籍市民に対しても開かれた職場として解放する考えはあるか。

 基本的には、一般職の国政条項は廃止し、外国籍の市民についても公務員への採用を可能にすべきであると考えます。権力的意志決定の責任者については外国人を排除する必要があるといわれることがありますが、あまり説得力がある論拠とは思えません。住民に密着した行政を行う自治体行政のレベルではすべての一般職公務員への就職に門戸を解放することに問題があるとは思われません。

 但し、地域における一定期間の定住や特定の犯罪歴がないことを条件とするとともに、内部的な昇任について、当初は年齢制限を設け、それを徐々に引き上げて行くなどの若干の調整は必要であると思います。

4  外国籍市民の一層の増加が予想される中、日本社会は今後どのように変わって行くべきと考えるのか。特に企業社会における就労差別撤廃のための所見は。

 マニフェストに書きましたが、地域社会に対する私のイメージは、「みんなちがってみんないい」と言うものです。高齢者と若者、男女、障がい者、外国人などが平等な権利を享受し、個性を活かしながら地域で協働、共生していくというものです。地域社会の強制的な統合ではなく、男女はその性差、外国人はその文化や伝統をほじして共生することが重要です。そしてこれが、地域社会の新たな活力になると考えて居ます。

 他民族国家アメリカでも近年は人種が溶けて一つになる「人種のるつぼ」という言い方よりも、様々な人種が個性をもって共生する「人種のサラダボール」と言っていますが、正しい方向性であると思っています。

 企業における外国人の就労差別については、外国人を雇用すれば企業利益はひゅえるというあり方は問題です。労働関係法令に基づき日本人であっても外国人であっても能力に応じて正当に扱われるべきであると考えます。具体的には、違法、不当な雇用を行っていた企業については入札参加や市への物品納入を停止することなどを検討すべきと考えます。

5  平等で自由な民主主義社会の構築のために行政として何をなすべきか、見解を問う。

 現実的には二つのことに取り組む必要があると思います。まず、コスト削減のためだけの外国人を安易に入国させないことが重要です。研修生名目や学生として受け入れ、労働者として使用するという脱法行為を許すべきではありません。

 次に、受け入れるからには、能力に応じて日本人と同じ権利を与えるとともに、児童、生徒に外国人との共生についてしっかりと正しい教育を行うことが不可欠です。そのためには、企業や教師に対する啓発を行う必要があります。

 人種や生まれた国が違っていても人は平等であること、文化や習慣の違いを受け入れるだけの寛容をしっかりと教育する必要があります。外国人子弟との共同生活やイベントへの参加など、行政ができることはたくさんあります。


西村 たかじ氏の回答

1. 日本に定住する外国籍市民の方々の参政権は保障すべきです。納税者の義務を果たしているのに、税の使道を決める政治に個人が参画できないのは問題です。

2. 県内でも合併の是非を問う住民投票で、定住外国人の参加を認めた例もあります。福井市においてもその機会があれば同様の施策をおこないます。

3. 市職員採用における国籍差別をなくし、市政の発展のために有為な人材を積極的に採用します。

4. かつての日本軍国主義の侵略戦争を美化する政党、政治家に対する日本国民の理性の審判なしには、諸外国から信頼される国とはなりえません。
 就労差別撤廃では、まず市役所が範を示し、事業所によびかけます。

5. アメリカいいなりで憲法9条を改憲し、「戦争できる国」をめざす政治に市民とともにストップをかけます。
 有事体制づくりである国民保護計画作成と市民への訓練押しつけはおこないません。
 憲法をいかす政治でこそ、「平等で自由な民主主義社会」へつながっていくと確信します。


酒生 文弥氏の回答

1. 合法的に居住・生活されているすべての外国人の方々に、選挙、被選挙権を含む、主権者として当然の参政権を保障すべきだと考えます。又、いわゆる不法滞在の方々も充分に人権を保障し、情状によってはビザを発給するなどして、合法的滞在権を与えるべきだと、考えます。

2. 福井市の条例制定権を充分に発揮して、外国人にも可能な限り参政権を賦与いたします。外国籍市民の方々による常設の諮問機関を設定するのも一つかと思います。

3. 一般職の国籍条項は、即時撤廃し、市の公務員職を、すべての希望者が受験できるようにいたします。

4. 日本は、現在のアメリカ合衆国以上に、海外からの移民を必要とするようになってきています。本来長い縄文時代に、大量の様々な民族が移住し混血してできた「日本人」です。これからは、この島国に移住したい方々を積極的に受け容れる移民多民族国家になるべきだと考えます。

5. 一切の偏見から解放された科学的な人類学、文化多元主義を教育するインターナショナルスクールを支援、運営し、真の国際教育によって啓蒙します。


6. 因みに、私の父方の親族はすべてアメリカ国籍であり、妻はルーマニア人です。韓国、中国、および東南アジアに友人も多く、在日朝鮮人、韓国人、中国人にも友人や師(高史明先生など)がたくさんいます。
 この国は、縄文時代にアマタ(ヤマトの語源)の民が移住・混血し、大きく和して、大和民族(ヤマト民族)というアイデンティティーをもった、元来が大移民で成立した国です。長い鎖国・封建時代で、内外に差別意識をもつ「島国根性」に堕落して、外国に妙なコンプレックスをもつようになってしまったのかも知れませんが、戦後第2元(2回目の60年紀)に入った本年から、大陸との歴史も淳いこの福井から、本来の多民族和合の国を再建していくべきです。


坂川 まさる氏の回答

1. 将来的には、参政権の保証も必要だと考える。現状では、国や、県の動向を見極めたい。

2. 「市民が主人公」の市政を目指す中で、市民と直接対話する機会を多く取りたいと考えている。外国籍市民との対話も是非実現させたい。

3. 一般職の一部採用・任用の現状を分析検討し、今後の課題として取り組みたい。

4. 人口減少による経済的、社会的活力の低下が危惧する中で、外国籍市民の活躍の場が増加するだろうし、その環境整備が大切だと考える。


5. 環日本海時代といわれるが、福井は立地条件からみてアジアを重視した交流が必要である。行政・団体・学校・企業が姉妹関係などで交流を積極的に進めることが、相互理解が平等で自由な社会構築につながると考えている。

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会のコメント

 回答者の皆さんは、外国籍住民に参政権という基本的人権がうばわれている状態を認識されていると思う。今回の回答には定住外国人の参政権を否定する意見はありませんでした。


 高木氏の回答では、外国人は犯罪者が多いとでもいわんばかりの表現が心配です。日本人では税金の滞納や犯罪歴で参政権は禁止されていないのに(公民権停止は別として)外国人の場合は認めないというのは同格扱いではありません。また公務員一般職の国籍条項の項目でも「特定の犯罪歴がない」事を強調されていますが、この制限の必要性が理解できません。


 西村氏には 5 の具体的施策をおききしたいものです。

 酒生氏の 2 の市の条例で実際に可能がどうか調べて頂きたい。

 坂川氏の 1 で住民の人権を守るという点では、国は県の顔色をうかがったりお伺いをたてる必要はありません。「市民」への目線で、坂川氏ご自身が考えて頂きたい。

なお 坪田氏からは回答はありませんでした。