平成五年(行ツ)第一六三号

              

              判決

 

 大阪市北区中崎二丁目二番二号         上告人 金 正圭

 同 生野区田島一丁目五番一五号        上告人 金 胎一 

 同 生野区巽西四丁目七番二四号        上告人 朴 英美

 同 生野区田島一丁目六番一二号        上告人 金 昊火玄 

 同 北区中崎二丁目二番二一号         上告人 高 和彦

 同 生野区巽西四丁目七番二号         上告人 李 政根 

 同 北区中津三丁目二三ー00五号       上告人 黄 正根 

 同 東淀川区東淡路一丁目五番四ー九一六号   上告人 高 在炳 

 同 西淀川区竹島三丁目三番三0号       上告人 金 炯守 

    右 九名訴訟代理人           弁護士 相馬達雄

                            平木純二郎

                            能瀬敏文

 大阪市北区扇町二丁目一番七号    

     被上告人  大阪市北区選挙管理委員会  右代表者委員長 芝垣博宣

 同 生野区勝山南三丁目一番一九号 

     被上告人  大阪市生野区選挙管理委員会 右代表者委員長 松林勉

 同 東淀川区豊新二丁目一番四号

     被上告人  大阪市東淀川区選挙管理委員会 右代表者委員長 三好幸雄

 同 西淀川区御幣島一丁目二番一0号

     被上告人  大阪市西淀川区選挙管理委員会 右代表者委員長 矢谷澄

     

     右四名代理人                 喜多剛久

 

右当事者間の大阪地方裁判所平成二年(行ウ)第六九号、第七0号、第七一号、第七二号、第七四号、第七五号、第七六、第七七号、第七八号 選挙人名簿不登録処分に対する異議の申出却下決定取消請求事件について、同裁判所が平成五年六月二九日言い渡した判決に対し、上告人らから全部廃棄を求める旨の上告の申し立てがあった。よって、当裁裁判所は次のとおり判決する。

 

                 主文

 本件上告を棄却する。

 費用は上告人らの負担とする。

                 理由

 

 上告代理人相馬達雄、同平木純二郎、同能瀬敏文の上告理由について

 

 憲法第三章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものである。そこで、憲法一五条一項にいう公務員を選定罷免する権利の保障が我が国に在留する外国人に対しても及ぶものと解すべきか否かについて考えると、憲法の右規定は国民主権の原理に基づき、公務員の終局的任免権が国民に存することを表明したものにほかならないところ、主権が「日本国民」に存するものとする憲法前文及び一条の規定に照らせば、憲法の国民主権の原理における国民とは、目本国民すなわち我が国の国籍を有する者を意味することは明らかである。そうとすれは、公務負を選定罷免する権利を保障した憲法一五条一項の規定は、権利の性質上日本国民のみをその対象とし、右規定による権利の保障は、我が国に在留する外国人には及ばないものと解するのが相当である。そして、地方自治について定める憲法第八章は、九三条二項において、地方公共団体の長、その議会の議員及ぴ法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が直接これを選挙するものと規定しているのであるが、前記の国民主権の原理及びこれに基づく憲法一五条一項の規定の趣旨に鑑み、地方公共団体が我が国の統治機構の不可欠の要素を成すものであることをも併せ考えると、憲法九三条二項にいう「住民」と地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味ものと解するのが相当で、右規定は、我が国に在留する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙の権利を保障したということはできない。以上のように解すべきことは、当裁判所大法廷判決(最高裁昭和三五年(オ)第五七九号同年一二月一四日判決・民集一四巻一四号三○三七頁、最高裁昭和五○年(行ツ)第一二○号同五三年一○月四日判決・民集三二巻七号一二二三頁)の趣旨に徴して明らかである。

 このように、憲法九三条二項は、我が国に在留する外国人に対して地方公共団体における選挙の権利を保障したもとはいえないが、憲法第八章の地方自治に関する規定は、民主主義社会における地方自治の重要性に鑑み、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するいう政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨に出たものと解されるから、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居庄する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく、法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である。しかしながら、右のような措置を講するか否かは、専ら国の立法政策にかかわる事柄であって、このような措置を講じないからといって違憲の間題を生ずるものではない。以上のように解すべきことは、当裁判所大法廷判決・(前掲昭和三五年一二月一四日判決、最高裁昭和三七年(あ)第九○○号同三八年三月二七日判決・刑集一七巻二号一二一頁、最高裁昭和四九年(行ツ)第七五号同五一年


四月一日判決・民集三○巻三号二二三頁、最高裁昭和五四年(行ツ)第六五号同五八年四月二七日判決・民集三七巻三号三四五頁)の趣旨に徴し、明らかである。

以上検討したところによれば、地方公共団体の長及びその議会の議員の選挙の権利を日本国民たる住民に限るものとした地方自治法一一条、一八条、公職選挙法九条二項の各規定が憲法一五条一項、九三条二項に違反するものということはできず、その他本件各決定を維持すべきものとした原審の判断に憲法の右各規定の解釈の誤りがあるということもできない。所論は、地方自冶法一一条、一八条、公職選挙法九条二項の各規定に憲法一四条違反があり、そうでないとしても本件各決定を維持すべきものとした原審の判断に憲法一四条及び右各法令の解釈の誤りがある旨の主張をもしているところ、右主張は、いすれも実質において憲法一五条一項、九三条二項の解釈の誤りをいうに帰するものであって、右主張に理由がないことは既に述べたとおりである。以上によれば、所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴訟法四0一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のおり判決する。

 

     最高裁判所第三小法廷

                    裁判長 裁判官 可部恒雄

                        裁判官 園部逸夫

                        裁判官 大野正男

                        裁判官 千種秀夫

                        裁判官 尾崎行信