名古屋高裁判決全文

平成八年六月二六日判決言渡 同日原本交付裁判所書記官

平成六年(行コ)第八号選挙人名簿不登録違法確認等請求控訴事件

(原審・福井地方裁判所平成三年(行ウ)第二号)判決

 

福井県坂井郡丸岡町荒町二九

               控訴人      李 鎮哲

 

福井県敦賀市三島町一丁目四一六

                     控訴人     鄭  慶讃

福井市灯明寺一丁目五一五

                     控訴人     薛  文昊

福井県坂井郡春江町江留下屋敷一一二番地

                     控訴人     朴  漢圭

右四名訴訟代理人             弁護士     丹羽雅雄

                             大川一夫

                             井上二郎

                             上原康夫

 

東京都千代田区笛が関一丁目一番一号

 

                 被控訴人国

                 右代表者法務大臣   長尾立子

福井市大手三丁目一○番一号

                被控訴人福井市選挙管理委員会

                  右代表者委員長    益永民夫

福井県敦賀市中央町二丁目一番一号

                  被控訴人敦賀市選挙管理委員会

                  右代表者委員長    新納賢治

福井県坂井郡丸岡町西里丸岡第一二号二一番地一

                  被控訴人丸両町選挙管理委員会

                  右代表者委員長    西出文雄

 

福井県坂井郡春江町随応寺第一七号一○番地

                  被控訴人春江町選挙管理委員会

                  右代表者委員長    渡辺賢一

                  右五名指定代理人   泉良治

                             波多野昭良

                             種谷淳一郎

                             北村政保

                             木下良

                             千葉義弘

                             嶋一哉

 

                  右被控訴人福井市選挙管理委員会指定代理人

 

                             奥田芳文

                             衣目川一郎

                  右被控訴人敦賀市選挙管理委員会指定代理人

                             富本照孝

                             土屋尚樹

                  右被控訴人丸岡町選挙管理委員会指定代埋人

                             前田公治

                             戸板進

                  右被控訴人春江町選挙管理委員会指定代理人

                             五十嵐英之

                             黒川正夫

 

主文

 

一 原判決の主文第一項を取り消す。

二 各控訴人の被控訴人各選挙管理委員会に対する各控訴人がその属す

る普通地方公共団体の長及びその議会の議員の選挙権行使のための選

挙人名簿に登録されていないことは違法であることの確認を求める訴

えをいすれも却下する。

三 各控訴人のその余の控訴をいずれも棄却する。

四 控訴費用は控訴人らの負担とする。

 

  事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一 控訴人ら

1 原判決を取り消す。

2 控訴人季鎮哲と被控訴人丸岡町選挙管理委員会及ぴ被控訴人国との間において、控訴人鄭慶讃と被控訴人敦賀市選挙管理委員会及び被控訴人国との間において、控訴人薛文昊と被控訴人福井市選挙管埋委員会及び被控訴人国との間において、控訴人朴漢圭と被控訴入春江町選挙管理委員会及び被控訴人

国との間において、右各控訴人が属する普通地方公共団体の長及びその議会

の議員の選挙権行使のための選挙人名簿に登録されていないことは違法であ

ることを確認する。

3 被控訴人らは、各控訴人に対し、各自一○○万円及びこれに対する、被控

訴人国は平成三年五月二八日から、その余の被控訴人らは同月二五日から、

各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

 

4 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

5 第3項につき仮執行宣言

二  被控訴人ら

1 本件各控訴を棄却する。

2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

3 仮執行免脱宣言

第二 事案の概要

事案の概要は控訴人らの主張およびこれに対する被控訴人らの反論を次のとお

り付加する他、原判決の事実及び理由の「第二 事案の概要」記載のとおりであ

るから、これを引用する。

一 控訴人らの主張

1 本件各無名抗告訴訟について

(一)無名抗告訴訟の類型は極めて多様かつ多義的である、必ずしも「公権力

の行使に関する不服の訴訟」に限定されるものではない。要するに裁判所

法三条一項に定める事件性・具体的争訟性が認められれば、訴えとしての

道法要件を充足するというぺきである。控訴人らは、本件訴えにおいて、

憲法九三条二項にいう「住民」である控訴人らのその属する地方公共団体

の長及びその議会の議員の選挙権(以下「地方参政権」という。)の行使

が妨げられているという違法状態が現に継続し、憲法上の基本権である選

挙権に対する具体的侵害があると主張しており、しかもその侵害は既に現

実のものとして生じていることが明らかであるから、事件性及び法律上の

争訟性が認められる。また、行政事件訴訟法一二八条一項は、取消訴訟以外

の抗告訴訟である無名抗告訴訟にも準用されるから、右訴えについて認容

判決がなされると、被控訴人各選挙管理委員会は、この判決に拘束され、

判決の趣旨に則って控訴人らを選挙人名簿に登載すべき作為義務を負うに

至るから確認の利益も認められる。

(二)更に控訴人らが被控訴人国に対して求めている控訴の趣旨第二項の裁判

は、同被控訴人が本件各国籍条項を設け、かつこれを存続させることによ

り、控訴人らが選挙人名簿に登録されていないという公法上の法律関係を

現に控訴人らとの間に作出していることについて、その法律関係が違法で

あることの確認を求めているものである。前記のとおり無名抗告訴訟の多

様性からすれば、被告が行政庁に限られるべきものではない。

2 旧植民地出身者及ぴその子孫の地方参政権の保障について

(一)控訴人らは、大日本帝国が朝鮮を完全に植民地化した一九一○年のいわ

ゆる日韓併合以来、自らの国籍を奪われ、強制的に帝国臣民とされ、歴史

上類を見ない大日本帝国の徹底した植民地政策の中で、民族の言語も文化

も剥奪され、強制的あるいは半強制的に日本に居住させられてきた人々も

しくはその子孫であって、日本に在住する定住外国人の中でも特別の地位

を占める。ところが、敗戦を機に日本政府は、一九四五年一二月の衆議院

議員選挙法改正により、未だ旧植民地出身者が法的には日本国民であるの

に選挙権、被選挙権を停止し、一九四七年四月には外国人登録令を公布し

て旧植民地出身者を当分の間外国人とみなして外国人登録による管理を強

要し、最終的には一九五二年四月一九日の法務省民事局長通達により国籍

を喪失せしめたものであって、旧植民地出身者を合意もなしに国家及び地

域の構成員としての地位から法的に完全に除外した。旧植民地出身者は、

様々な民族差別が残存しているのにもかかわらず、自らの力で敗戦後の日

本の復興に大きく寄与し、今日の日本を少なからずの部分で支える存在と

なっており、日本社会全体、とりわけ地域の構成員としての密着度が強ま

っている。このような、地域に密着し、社会的な意味で地域杜会の構成員

と認められる人々を法律で一律に住民から排除することは、地方自治を保

障した現行憲法上許されない。

したがって、定住外国人一般について直ちに憲法上の基本的人権の保障

が及ぱないとしても、旧植民地出身者に対する戸籍条項の導入とそれ以降

の歴史的事実、在留原因の特殊牲を考えるならば、日本の朝鮮植民地支配

の結果、在日を余儀なくされた旧植民地出身者及ぴその子孫である控訴人

らに対して、地方自治体の住民として選挙人資格を保障することなく、本

件各国籍条項を適用して控訴人らの地方参政権を侵害することは、明らか

に適用違憲となる。

(二)控訴人ら旧植民地出身者及びその子孫に対する地方参政権の保障をしな

い立法上の不作為は、立法をなすぺき内容が明自で、事前救済の必要性が

顕著であり、しかも他に救済手段が存在しない上、戸籍条項の導入による

参政権の停止以後現在に至るまで相当の期間が経過していることからする

と、立法裁量権の明らかな逸脱、濫用であるから違憲かつ違法である。

二 被控訴人らの反論

1 本件各無名抗告訴訟について

(一)講学上のいわゆる無名抗告訴訟とは、行政事件訴訟法一二条一項に定める

「行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟」である抗告訴訟のうち、同

条二ないし五項に定めるいわゆる法定抗告訴訟以外の形態の抗告訴訟をい

うものであって、あくまでもそれは抗告訴訟であるから行政処分性が訴訟

要件となるべきものである。したがって、控訴人らの被控訴人らに対する

違法確認を求める訴えが無名抗告訴訟として適法であるためには、何らか

の行政処分がなされたことに対する不服、あるいは法令に基づく申請に対

し行政処分がなされないことに対する不服の訴訟でなければならないとこ

ろ、右訴えは、控訴人らが選挙人名簿に登載されていないことの違法確認

を求めるというのであるから、これは何らかの行政処分がなされた結果と

見ることはできず、抗告訴訟としての要件を欠いている。また、右登載さ

れないことが、被控訴人らが公権力を行使しないという消極的な態様の結

果であるとしても、このような不作為に対する抗告訴訟は、法令に基づく

申請が先行することが要件とされるところ(行政事件訴訟法三条五項)、

本訴において控訴人らが選挙人名簿ヘの登載を求める申請をなしたとの主

張はなく、抗告訴訟の要件を欠いている。また、右訴えを、控訴人らが選

挙人名簿に登載されないという状態の違法確認訴訟と解する余地があると

しても、この判決によって右状態を改変する効力を有するとは解されない

から、確認の利益がなく不適法である。

(二)控訴人らは、選挙権を有することは憲法上の要請であり、憲法及び公職

選挙法上の日本国民であると主張しているから、公職選挙法二五条の名簿

訴訟によることができるものである。そうすれば、代替性を欠いているか

ら、違法確認訴訟の限度であっても無名抗告訴訟は認められない。

2 旧植民地出身者及びその子孫の地方参政権の保障について

(一)憲法第八章の地方自治に関する規定の趣旨からすると、法律をもって、

控訴人らのごとき一定の要件を有する外国人に地方参政権を付与する措置

を講ずることは憲法上禁止されているものではないと解されるが、右のよ

うな措置を講するか否かは、専ら国の立法政策にかかわる事柄であって、

このような措置を講じないからといって、違憲の問題を生じるものではな

い(最高裁判所平成七年二月二八日判決)。

(二)本件各国籍条項は、選挙権を有する要件について、日本国籍を有する者

に限定しているところ、控訴人らは、憲法上、日本国籍を有していない外

国人で日本国民でないから、そもそも適用されるべき当事者の範囲に含ま

れないのであって、適用違憲の間題は生じない。また、立法の不作為違憲

は、少なくとも法令違憲又は適用違憲を前提とするから、本件各国籍条項

について、そもそも立法の不作為違憲の問題は起こらない。なお、控訴人

らの被控訴人国に対する国家賠償請求は、不法行為の主体及びその内容の

特定に欠けるから失当である。

第三 7当裁判所の判断

一 本件各無名抗告訴訟の適法性について

本件各無名抗告訴訟の適法性についての当裁判所の判断は、原判決六枚目裏

四行目「考えられるが、」以下同末行末尾までを次のとおり改める他、原判決

五枚目表二行目冒頭以下同六枚目裏末行末尾までと同一であるから、これを引

用する。

「考えられる。しかしながら、無名抗告訴訟は、これが法定抗告訴訟によって

は救済できないときに補充的に認められるに過ぎないものであるるところ、その

うち義務確認訴訟を含めて義務付け訴訟においては、①行政庁の作為、不作為

義務の内容が裁量の余地のないほど明白で、②性質上、裁判所の判断に適する。

事項であり、行政庁の第一次的な判断権を留保する必要性がそれ程ないような

事柄に関する場合であって、③他方、出訴を認めなければ回復し難い損害が生

じ、事前救済の必要性が顕著である等の要件が満たされた場合にのみ認められ

る。そうして右は、控訴人らの本件違法確認訴訟についても同様であると解さ

れる。そうすれば、被控訴人各選挙管理委員会に、二義を許さないほどに特定

して控訴人らを選挙人名簿に登録する義務がある場合にはじめて①の要件が満

たされると解すべきである。しかるに、公職選挙法二一条、二二条によれば、

市町村の選挙管理委員会はへ当該市町村の区域に住む二○歳以上の日本国民で、

当該市町村の住民票の作成された日から引き続き三か月以上住民基本台帳上に

記録された者について、同二二条一項、二項所定の要件に従って登録しなけれ

ばならない旨定められているのみで、右選挙管理委員会は、住民基本台帳に記

録されていない日本人ではない者について、これを選挙人名簿に登録すぺきか

否かを判断する権限など法律上有していないことは明らかである。よって、そ

の余の要件について判断するまでもなく、控訴人らの本件訴えは不適法として

却下を免れない。

 控訴人らは、被控訴人国に対して、被控訴人国が本件各国籍条項を設け、か

つこれを存続させることにより、控訴人らが選挙人名簿に登録されていないと

いう公法上の法律関係を作出していることが違法であるとして、その確認を求

めている。無名抗告訴訟が許容される場合については前判示のとおりであるか

ら、控訴人らの主張は採用することができない。控訴人らのこの点の訴えを、

本件各国籍条項を前提とする前記各法律を改廃しない国会ないしは内閣の総体

としての国を被告として、右作為、不作為の違法の確認を求めるものと善解す

るとしても、右作為、不作為をもって公権力の行使と認められるか否かはとも

かく、行政庁に当たらない被控訴人国を被害とする点において右訴えは不適法

である。

以上のとおりであるから、控訴人らの被控訴人1各選挙管理委員会及び同国に

対する違法確認を求める訴えはいずれも不適法である。」

二 国家賠償請求についての被控訴人各選挙管理委員会の被告適格について

当裁判所も、被控訴人各選挙管理委員会は、国家賠償請求について被告適格

を有しないと判断するところ、その理由は、原判決七枚目表二行目冒頭以下同

一○行目末尾までと同一であるから、これを引用する。

三 控訴人らに対し地方参政権を認めない本件各国籍条項は憲法、地方自治法、

市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「B規約」という。)に違反す

るかどうかについて

当裁判所も、本件各国籍条項は憲法、地方自治法及びB規約に違反するもの

ではないと判断するところ、その理由は、次に付加・訂正する他、原判決七枚

目裏二行目冒頭以下同一三枚目裏六行目末尾までと同一であるから、これを引

用する。

1 原判決七枚目裏九行目「朴」及び同一○行目「鄭」の前にそれぞれ「同」

と付加する。

2 原判決八枚目表四行目冒頭以下同一一枚目表三行目末尾までを次のとおり

改める。

「2 憲法一三条後段、一五条一項、三○条及び九三条二項違反について

 憲法一五条は、国民主権の原理に基づき、公務員の終局的任免権か国民

に存在することを表明したものに他ならないところ、憲法前文及び一条の

規定に照らせば、憲法の国民主権の原理における国民とは、日本国民すな

わち我が国の国籍を有する者を意味することが明らかであり、そうすれば、

公務員を選定罷免する権利を保障した憲法一五条一項の規定は、権利の性

質上日本国民のみをその対象とし、右規定による権利の保障は、我が国に

在留する外国人には及ばないものと解するのが相当である。そして、前記

の国民主権の原理及びこれに基づく憲法一五条一項の規定の趣旨に鑑み、

地方公共団体が我が国の統治機構の不可欠の要素をなすものであることを

も併せ考えると、憲法九三条二項にいう「住民」とは、地方公共団体の区

域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり、右

規定は、我が国に在留する外国人に対して、地方参政権を保障したもの

いうことはできない。憲法第八章の地方自治に関する規定の趣旨からする

と、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区

域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものに

ついて、その意思を日常生活に密接な関連を有する地方公共団体の公共的

事務の処理に反映させるべく、法律をもって、地方参政権を付与する措置

を講ずることは憲法上禁止されているものではないと解するのが相当であ

る。しかしながら、右のような措置を講するか否かは、専ら国の立法政策

にかかわる事柄であって、このような措置を講じないからといって違憲の

間題を生じるものではないと解すべきである。したがって、日本国民たる

住民に限り地方参政権を有するとする本件各国籍条項が憲法一五条一項、

九三条二項に違反するものということはできない(最高裁平成七年二月二

八日第三小法廷判決、民集四九巻二号六三九頁参照)。また、本件各国籍

条項が憲法一一二条後段、三○条に違反するとの主張も、ひっきょう憲法

五条一項、九三条二項の解釈の違反をいうものであるから、前示理由のと

おり採用することができない。

3 適用違憲について

(一)明治四三年八月のいわゆる日韓併合以来、当時の朝洋人は、外地人と

して日本国籍を有する帝国臣民となったものの、一方で、それは内地人

と同様に日本の国籍法及ぴ戸籍法の適用を受けることなく、戸籍につい

ては別途朝鮮戸籍令の適用を受けた。内地にいる外地人としての朝鮮人

は、日本帝国臣民として選挙権、被選挙権を有していたところ、昭和二

○年一二月一七日改正の衆議院議員選挙法附則において、戸籍法の適用

を受けない者の選挙権及ぴ被選挙権が当分の間停止され、同二二年五月

公布の外国人登録令により、旧植民地出身者を出入国管理及び外国人登

録上は、当分の間外国人とみなすこととされ、同二七年四月発効の平和

条約によって、我が国が朝鮮の独立を承認し、旧植民地出身者に対する

主権を放棄した結果、これらの人々が日本国籍を喪失し、我が国におけ

る選挙権、被選挙権を確定的に有しなくなったことが明らかである。

(甲一○の1.2、弁論の全趣旨)

(二)旧植民地出身者及ぴその子孫が、その歴史的経緯により我が国での在

住を余儀なくされ、日韓併合以来今日まで我が国の社会構成員として無

視し難い役割を担いながら、民族的差別の中で苦難と犠牲を強いられて

きたものであり、我が国に定住する外国人のうちで在日朝鮮人が特別な

地位を占めていることからすると、これらの者に対しては、過去及び現

在における不当な処遇を可及的速やかに是正し、我が国の社会に対する

寄与に相応しい処遇を授けられるよう配慮するのが望ましいことではあ

る。前示のとおり地方公共団体が我が国の統治機構の不可欠の要素をな

すものであり、憲法九三条二項の規定は、我が国に在留する外国人に対

して地方参政権を保障したものではないものの、我が国に在留する外国

人のうち永住者等居住する区域の地方公共団体と待段に緊密な関係を持

つに至ったと認められる者について、法律で地方参政権を付与する措置

を講ずることは憲法上禁止されているものではない。しかしながら、そ

のような措置を講ずるか否かは、専ら国の立法政策にかかわる事柄であ

って、高度な政治的、杜会政策的見地等からする広範な裁量に委ねられ

ているものというべきであることからすると、控訴人らが主張する控訴

人らが旧植民地出身者及びその子孫であるという在留原因の特殊性、社

会生活における差別実態と社会構成員性ということが、直ちにこれらの

人々に対してのみ地方参政権を認めなければならないということになる

ものと解することはできない。したがって、国籍条項を控訴人ら旧植民

地出身者及びその子孫に適用することの違憲をいう控訴人らのこの点の

主張は採用できない。」

4 原判決一一枚目表四行目冒頭以下同五行目末尾までを「4B規約二五条

違反について」と、同一二枚目表三行目「6」を「5」と、同一○行目「7」

を「6」と、同一三枚目表八行目「8」を「7」と各改める。

四  本件各国籍条項を存置し、これを改廃しない立法不作為による国

家賠償請求について

控訴人らは、国会ないしは内閣の総体としての国が本件各国籍条項を存置し、

これを改廃しないことが、国家賠償法一条一項にいう国の公権力の行使に当た

る公務員の違法行為に該当すると主張する。右主張をもって、本件各国籍条項

を改廃しない国会議員の立法不作為をもって、国の公権力の行使に当たる公務

員の行為であるとの主張であると解するとしても、国会議員の立法行為は立法

の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず敢えて当該立法を

行うというごとき例外的な場合でない限り、国家賠償法一条一項の適用上違法

の評価を受けるものではない(最高裁昭私六○年一一月二一日第一小法廷判決、

民集三九巻七号一五一二頁参照)。我が国に在留する外国人のうち、その居住

する地域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められる者に

地方参政権を付与する措置をとらないことが憲法に違反するものではないこと

は先に判断したとおりである。そうすれぱ、結局、本件において被控訴人国に

国家賠債法上の違法が認められず、この点において控訴人らの主張は理由がな

い。

五 結論

以上の次第であって、各控訴人の各被控訴人に対する違法確認を求める訴え

及ぴ被控訴人各選挙管理委員会に対する損害賠償請求にかかる訴えは、いずれ

も不適法であるから却下すべきであり、被控訴人国に対する損害賠償請求にか

かる訴えはいずれも理由がないから棄却すべきところ、原判決中各控訴人の被

控訴人各選挙管理委員会に対する違法確認請求を棄却した部分は不当であるの

でこれを取り消すこととし、その余の控訴は理由がないから棄却することとし

て、主文のとおり判決する。

    名吉屋高等裁判所金沢支部第一部

              裁判長裁判官    笹本 淳子

                 裁判官    宮城 雅之

                 裁判官    気賀澤 耕一